日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~
このプラットフォーム上で思いついた企画を実行、仮説・検証を行う場。基本ロジック=整理・ソートすることで面白さが増大・拡大
 





サブタイトルはかなり長い。
日本語版:世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密
原語:The story of McKinsey and its secret influence on American business



面白かった部分を以下、メモ。
まず、コンサルティング業という職業が成立した時代背景。

連邦政府自体が、知らず知らず現代のコンサルティング・ビジネスの創設に一役買っていた。
政府は19世紀後半から、1890年の反トラスト法や1914年の連邦構成取引委員法とクレイン法、
1933年のグラス・スティーガル法などで、定期的に大企業の力を抑える規制を行った。
これらの対策が意図は、企業が結託して価格を固定したり、市場を操作したりするのを防ぐことだ。
その意図せざる効果は、歴史学者のクリストファー・マッケナによれば、寡占企業の間で非公式では
あるが合法の情報共有をうながしたことだという。そしてそれができたのが、コンサルタントだった。

マッキンゼーのような存在にとって、規制はまた別の大きな利益を生んだ。
密室での取引を規制された企業は、実際に競争せざるをえず、そのため事業をより効率的に行わなければならなくなった。
それに対する打開策こそ、コンサルタントだったのだ。

しかしおそらく、コンサルタントという職業が誕生する最大の助けとなったのは、重要な企業が新たに実業界に参入してきたことだ。
カーネギーやデューク、フォード、ロックフェラーなどの大財閥が垂直に統合された巨大な企業体を築き上げていたが、
彼らには自分たちの組織のために管理組織を創ったり、実行したりする時間も才能も意思もなかった。


ここだけでも、コンサル業がいかにもアメリカ的な背景から登場してきたかが、よく理解できる。
日本語タイトルでは「世界」となっているが、実は原題は「アメリカ」な理由がここに(笑)


次に面白かった点。
コンサルタントである以上、直接の結果や長年の成果に責任を追わせようとするクライアント
があるだろうことは、容易に予想できる。
だがマッキンゼーは、その仕事の品質について開かれた議論をしたことなどない。
その明確な理由が本にあった!

1935年、創始者のジェームス・マッキンゼーは中西部最大の百貨店、マーシャル・フィールドのコンサルをした。
ここでのコンサル内容は、18の繊維工場を売却して小売のみに特化、という「大規模なリストラ」
経営陣から「同じ立場だったら実行できるのか?」と問われ、CEOとなり、自ら大ナタをふるう。
1200名の解雇を始め、過酷なリストラで企業は生き残ったようにみえたが、幻滅した従業員の士気は失われ、企業活力は壊滅。
結局、身売りすることになる。
この際、ジェームズは肉体的、精神的に追いつめられ、肺炎で1937年に死去。
マッキンゼーは初代の死後、顧客リストを明かすことを拒絶するようになる。


ここにコンサルタントの大半にみられる問題点がはっきりする。
「リストラクチュア」「ダウンサイズ」「合理化」などの言葉が言葉では成立しても、実際は従業員の「解雇」の意。
合理的な分析、の実態はこんなことだったのだ!

しかも苦境にある企業だけでなく、健全な企業にも使われるようになっていった。
1991年フリトレーはアドバイスに従い、本社職員の3分の1をリストラ。
1994年 P&G は1,066,000人のうちの13,000人をレイオフ。
(p.248)

あるイギリスのジャーナリストは、この種のしばしば苦痛をともなう企業活動を説明するために「マッキンゼーされる」という言葉を作った。
(p.116)


この他、読みどころは多い。
社内の猛烈な生存競争と、たとえ脱落してもマッキンゼー出身を誇る風土
自社否定的な内容にもかかわらず、大ヒットした「エクセレント・カンパニー」トム・ピーターズ
大前研一が有名なのは日本だけではなく、世界的エース × 3人に数えられていた(って知りませんでしたよね?)



そしてクライマックスは、21世紀冒頭に放たれた大花火、エンロン!

マッキンゼーとこの大事件との関わりは、あまりに「深い」
エンロン首謀者の1人、スキリングはマッキンゼーのディレクターに選出された年の内に、担当していたエンロンにスカウトされる。
いかにマッキンゼーがエンロンを愛していたか → 社内外に発信するレポート「マッキンゼー・クオータリー」のエンロン登場回数127回!
しかも、簿外での金融取引、証券化、細分化、などのヤバい方向性を革新的と賞賛している。

しかも、そのエンロンで賞賛していたことを、そのまま銀行に告げていた(p.336)
リーマンショック陰の立役者?!

当時のマッキンゼー代表 グプタは以下のように述べている。
「私たちはあらゆる仕事について傍観者の立場にいる。私たちにできるのはクライアントの苦労に共感するだけだ」
「クライアントに戦略を助言するだけだ。起こした行動の責任は彼らにある」

そしてこの件にはオチがつく。
2012年10月インサイダー取引違反の判決を受け、グプタはマッキンゼー社員で初の牢獄へ...



作者のダフ・マクドナルド氏は上で見てもらえればおわかりいただけるように、湛然にコンサルの誕生経緯から限界までを描ききっている。
かつ「冷静に」という点で、これまでのコンサル批判本とは一線を画す内容だと考える。

当ブログ結論は サブタイトルの通り、「実行」そして「責任」を伴わない、合理的思考の「限界」と「危険」

年末に読むに、読み応えタップリの1冊。
お勧め!

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