「1998 ( 平成10 ) 年11月17日、英紙フィナンシャル・タイムズ は、」「 " 日本的手法の金融社会主義 " という、記事を掲載した。」
経済と金融は不得手なので、氏の意見を紹介するにとどめます。当時日銀が、民間企業の資金繰りを支援するため、融資と社債購入という新たな貸し出し決定をしました。同紙の記事は、こうしたことへの批判だと言います。氏が外資系証券会社の、チーフストラテジストの意見を紹介します。
「どんなに採算の悪い赤字企業も、これで生存が可能になったということです。」「フィナンシャル・タイムズの指摘通り、事実上の経済の国営化で、」「社会主義経済と変わりません。」
ここで言う民間企業というのは、銀行を指しているのだと思いますが、すでに長期信用銀行と、日本債権信用銀行が破綻し、公的資金の投入により経営改善した大手銀行が統合され、メガバンクとなっています。三井、三菱、住友など、由緒ある名前も捨て、財閥の垣根を超え、銀行は合併・統合しました。
日本を襲った経済破綻は、それほどの危機でした。平成11 年までに注入された公的資金は、7兆4千6百億円で、さらに用意されたのが、25兆円の枠でした。この状況を、チーフストラテジストが次のように批評します。
「当面の混乱と軋轢を避けた、安寧重視の政策に逃げこむ日本を、」「英国の一流紙は、金融社会主義と呼んだ。」「米国の格付け会社は、日本の国債を、」「トリプルAから、ワンランク格下げした。」「そして21世紀の、日本の最も恐るべきライバル、中国は、」「日本を既に恐るるに足らずという。」
日本経済を思い切って改革するか、それとも軟着陸させるのかと、激論が交わされたことを覚えていますが、氏の説明が正しいのか、政府が妥当だったのか、経済・金融については、分かりません。しかしこの章で述べられている、中国への褒め言葉が、不愉快でなりません。というより私には、間違った意見と思えます。桜井氏は自分でなく、第三者の意見を紹介しています。
1. 大和証券北京事務所長 徳地立人氏
「鄧小平の下で、改革開放路線を進めてきた中国は、」「通産省を真似て、経済貿易委員会を設けるなど、」「日本の組織を取り入れました。」「しかし実際に、市場原理を働かせる段階では、」「アメリカをモデルとして、行きつつあります。」
「朱鎔基首相のブレーンの一人が、私に向かって断言しました。」「市場メカニズムは、人類が200年かけて、やっと発見した、」「経済を最も合理的に発展させるための、方法だ。」「中国はこれを利用して、発展すると決めた。」「どんなことがあっても、それを放棄してはいけないと、」「力を込めて言うのです。」
ここで櫻井氏は、中国は日本のように金融社会主義の国にならず、市場原理を守っていくと言う意見を引用し、あんに日本を批判しています。しかし中国はその後、共産主義的資本主義国と言う奇怪な国となり、市場原理も国際市場も無視し、世界経済を荒らす国家となります。本の出版当時は、まだそんな気配がなかったのでしょうか。
2. 中国共産党 対外工作責任者
「日本は、中国が大変革を遂げていることに、」「気づいていません。」「昔は全国で、週一回、共産党組織会議が開かれ、」「政治的、生活的自己反省が行われていました。」「今は、これらが全てなくなりました。」「共産党の組織と細胞は、今経済活動に専念しており、」「共産党の書記は、ほとんど会社の社長です。」
「日本が経済大国なのは、間違いありません。」「しかしその経済が最悪なのに、有効な対策を、」「いつまで経っても、打つことができません。」
「中国にとって、日本の位置づけは、」「1998 ( 平成10 ) 年11月の、江沢民国家主席の、」「訪日の形に、表現されています。」「中国語では、わざわざその国にだけ出かけることを、」「専訪と呼びます。」「他の国から帰りがけに、訪問するのを、」「順訪と呼びます。」「道すがらの、軽い訪問の意味です。」「日本への訪問は、アメリカからの帰りでした。」
3. レーガン政権での商務省日本担当者 クライド・プレストウィッツ氏
「日本経済の構造が、大変革されない限り、」「あるいは、改革についての、真剣な政治的議論が行われない限り、」「希望は持てない。」
4. ノーベル賞受賞のミルトン・フリードマン教授
「日本の現状は、アメリカの大恐慌と同じ体験を、」「今経験していると言うことです。」「ただし我々が、三年間で体験としことを、」「日本はこれまで8年かけ、より緩慢に、」「より薄められた形で、体験していると思います。」
「日銀は、与う限りの手を打って、」「通貨供給量を、5ないし8%増やすべきです。」「残されている手は、円安によって痛みを和らげつつ、」「抜本的な改革を、とにかくやると言うことです。」
5. 外資系証券会社の、チーフストラテジスト
「日本はこれまで、厳しい自己責任や効率、」「小さな政府、機会均等、結果に対する適正評価など、」「競争原理では当然とされる、鞭の政策が無さすぎた。」「中国政府の遂行している政策と、日本政府の政策を比較すると、」「どちらが社会主義かわからない。」「こんな状態から、早く抜け出すことです。」
日本人だから、日本の肩を持つ意見を取り上げて欲しいと、そんなことを言う気はありません。しかしここで取り上げられた意見は、どれも一方的に日本を批判しするものです。氏は一言の反論を述べるでもなく、アメリカの学者の意見を引用し、中国を褒めています。
日本を批判し攻撃しても、根底に祖国愛があれば私は感じ取り、理解もします。しかし氏の叙述から、日本への愛を感じることができませんでした。しかも氏の称賛は、間違っています。これでは、反日・左翼の学者や評論家の著作と、変わりがありません。無念の一語です。
次回は、この点につき、述べていきたいと思います。