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古い本 その71 Archaeoceti

2021年09月06日 | 化石

 鯨類の化石について調べ始めた頃、とにかく手当たり次第に論文を集めた。現在のようにインターネットで得ることができなかったから、大学の図書館にこもり、さらに他大学の先生方の研究室にまでおじゃまして、コピーをさせていただいたものだった。ここで紹介するのは、その中の一つ。H先生に感謝する。
Dames, W., 1894 Über Zeuglodonten aus Aegypten und die Beziehungen der Archaeoceten zu den übringen Cetaceen. Palaeontologische Abhandlungen N. F. Band 1, Heft 5: 189-221, Taf. 30-36. (エジプトからのZeuglodon 類と、Archaeocetiと鯨類との関係について)
 論文は、2ページの前書きの後、I章:化石の記載から始まる。ここでは、上下顎と歯、脊椎(頚椎・腰椎・尾椎)が記載されている。II章はエジプトのZeuglodon化石と他地域のものとの比較。III章は哺乳類の中のZeuglodon類の分類学上の位置、としていて、結論として歯鯨類を3つの下位分類に分け、最初がArchaeiceti、二番目をMesoceti、三番目をEuodontoceti、としている。その三つの基準は、Archaeocetiは歯の数が少なく、位置によって形が違う(異歯性)Mesoceti は歯の数が多くて異歯性、Euodontoceti は歯の数が多くて前後で形が変化しない(同歯性)とする。IV章はちょっと変わった内容で、Zeuglodon類の皮膚に防御的な構造があったかどうか、という問題について論じているようだが、エジプトの標本にはそういう構造はないが、アラバマのものに何かあるようだ。
 本文の後に7枚の図版がある。リトグラフのようだ。図版番号は、ジャーナルの通し番号(30−36)と、この論文の番号(1−7)が併記してある。ここでは分かりやすいように1-7を使う。図版1,2,5,6,7はエジプト産のZeuglodon Osiris 標本で、図版1は歯を伴う下顎。2は第2頚椎、5と6は腰椎、7が尾椎。この論文が新種記載であるから、これらがそれぞれホロタイプの一部分である。

212 Dames, 1894 Tafel 30 Zeuglodon Osiris 下顎

 この種類は、このときZeuglodon属に置かれたが、前に書いたようにBasilosaurus属に変更された後、Kellogg, 1936ではDorudon属に移され、さらに1992年にSaghacetus 属に変更された。(Basilosaurus osirisの方が馴染み深いなあ)現在の学名はSaghacetus osiris (Dames, 1894)。 
 Wilhelm Dames(1843-1898)はドイツ・ベルリン大学の古生物学者で、始祖鳥の全身骨格化石(ベルリン標本)の記載をしたことで知られる。
 図版3と4は、アメリカ・Alabama州のZeuglodon brachyspondylus J. Müller の第2頚椎と第3頚椎。この種類は次の単行本で、インターネットを用いて全文見ることができる。
Müller, Johannes Peter, 1849 Über die fossilen Reste der Zeuglodonten von Nordamerica, mit Rücksteht auf die europäischen Reste aus dieser Famillie. (北米のZeuglodontの化石について。そしてこの科のヨーロッパの標本についての背景)Verlag von Reimer, pp. 1-38, Plates 1-27.
 ベルリンに移されたKochの化石の記載。
 この図版は27枚もあって、リトグラフ。標本が断片的なものが多いから、骨、とくにその表面のあるところに、薄い黄土色の着色をするという凝った作りになっている。

213  Müller, 1849 Taf. 1 頭蓋の一部

 この図は、二つの標本から総合して描かれたもののようだ。

214  Müller, 1849 Taf. 12 脊椎骨

 これは特徴的な脊椎骨をえがいたもので、化石の表面のあるところに着色してある。これらの化石はZeuglodonに属するものとしているが、種名については本文をよく読まないと(よく読んでも?)わからない。中にはTaf. 23のように「kleinen Zeuglodon」としているがTuomeyが報告したAgorophiusか?と思うものもある。この論文では、「Zeuglodonten」というのは、現在の分類ではもっと広いものにあたるようだ。要するに前後に副咬頭の並ぶ頬歯をもつもののようで、SqualodonAgorophiusなどを含んだ概念だと思う。

215  Müller, 1849 Taf. 23 “kleinen Zeuglodon”

 Johannes Peter Müller (1801-1858)はドイツの動物学者。この調子で話を広げていくときりがないから、少し自重しよう。

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