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『異邦人』(読書メモ)

カミュ(窪田啓作訳)『異邦人』新潮文庫

なんとも不思議な読後感だった。

堅実な勤め人であるムルソーは、養老院に入っていた母の死にも感情を動かすことがなく、恋人マリイから結婚しようといわれても「君が望むのなら結婚してもいい」と答えるような、どこか現実から距離を置きながら生活している人間。

そんなムルソーは、ちょっとしたハプニング(正当防衛)から殺人を犯してしまうが、裁判のプロセスにおいても、どこか他人事のよう。

がゆえに、事態はどんどん悪い方向へとすすむ。普通の感覚を持つ人から見ると、ムルソーは非人間的で冷血漢に見えるからだ。

この小説を読むと、いかに世間が、共有した規範・倫理観・道徳を前提に動いているか、また、そうした前提を無視すると、とたんに排除されてしまうかがわかる。

世間における「あたりまえ」の恐ろしさに気づかせてくれる本書は、やはり名作だと思った。



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