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『一握の砂』(読書メモ)

石川啄木『一握の砂』朝日文庫

以前紹介した『天才の世界』で湯川先生が「啄木の作品の中には、誰もが好きになる歌が必ずある」とおっしゃっていたので、読んでみた。

詩や短歌は苦手なのだが、四首見開きで三行詩というスタイルなので、まるで小説のように読めた。

この歌集は五部構成であるが、良かったのは第一部の「我を愛する歌」。

たとえば以下の歌が印象に残った。

こころよく
人を讃めてみたくなりにけり
利己の心に倦めるさびしさ

燈影なき室に我あり
父と母
壁のなかより杖つきて出づ

手も足も
室いつぱいに投げ出して
やがて静かに起きかへるかな


ところで啄木は、ある時期に突然良い歌を量産するようになったらしい。

なぜか?

当初、啄木は自分は天才だと信じて小説を書きまくっていた。しかし、出版社は相手にしてくれず、まったく売れない。焦りと不安の中、急に短歌が湧き出して止まらなくなったという。こうした状態の中、二日で254首をつくり、ビッグバン状態となる。

解説によれば

「啄木は真面目な勤め人に変わった。借金もしなくなった。何よりも重要なのはこの世のあらゆることを直視する人間に変身したことであった。」「天才を捨てた時、真の「天才啄木」が誕生したのである」(p.310)

自分の思いにとらわれすぎると、人は持って生まれた力を発揮することができない。素直な気持ちで自分と向き合い、自然体になるとき、天から与えられた才能が花開くのだろう。
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