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『松下幸之助 夢を育てる:私の履歴書』(読書メモ)

松下幸之助『夢を育てる:私の履歴書』日経ビジネス人文庫

松下幸之助氏の自伝を読んで驚いたのは、氏の生命力である。体力とか精神力という言葉よりも、生命力といったほうがふさわしい。氏は70歳を超えたときに「どうも最近、体力が落ちてきたように思う」とおっしゃっている。ふつうは、40代、50代でつぶやく言葉だ。また、「人間、本気でやろうと思えば実現できる」という考え方が随所にみられる。

樋口廣太郎氏(アサヒビール名誉会長)がまだ住友銀行におられたころのエピソードが巻末で紹介されているが、これを読むと、幸之助氏は、80歳で相談役に退かれてからも、実質的な決定権を握っておられたようだ。94歳で亡くなるまで、精力的に働かれていたのだろう。

もうひとつ心に残ったのは「自己観照」という言葉。自己観照とは、自分を客観的に見て、素直な気持ちで物事を判断・実施すること、のようだ。幸之助氏は、次のように語っている。

「会社の経営でも何でも、素直な心で見るということがきわめて大事であると思う。そうすれば、事をやっていいか悪いかの判断というものは、おのずとついてくる。岡目八目というけれど、渦中にいる自分にはなかなか自分というものが分からない。だから意地になってみたり、何かにとらわれたりして、知らず知らずのうちに判断を誤ってしまう。やはり自己観照ということが大事である。」(p.117-119)

自分を客観的に見る能力は、認知心理学でいう「メタ認知」にあたり、物事に熟達した人は、この能力が高いといわれている。

素直な気持ちで物事を見る力は、物事の本質をとらえる力でもある。しかし、いろいろな欲やしがらみがあるため、素直に見ることが難しい。幸之助氏の成功は、自己観照ができていたためである、と感じた。
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