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じわじわくる小説

先日読んだ『ここは私たちのいない場所』(白石一文著、新潮文庫)の解説を読み、少し驚いた

なぜなら、本作は、解説を書いている編集者の中瀬ゆかりさんのために書かれたものだからである。

「この唯一無二の物語は、いまから四年前、2015年7月5日付のメールに添付され、私の元に届けられた。本文には「つたないものですが、約束していた原稿ができたので送ります。 白石一文」と記されていた」(p. 196)

中瀬さんは、長年連れ添ったパートナー(ハードボイルド作家の白川道さん)を大動脈瘤で亡くしたばかりだったらしい。白川さんが亡くなってから80日間でこの小説が書かれたという。

中瀬さんは言う。

「誰かをどうしようもなく愛したことがある者。大事な存在を喪失したことのある者。そして、子供を持たない者。この三つのどれかに当てはまる人間なら、この小説の顕す人生観とその哲学的なメッセージに共鳴しないはずはない」(p. 197)

この小説を読み終えたときは「?」と感じたのが正直な気持ちである。しかし、物語を反芻するうちに、じわじわと生と死の問題について考えさせられる不思議な小説なのだ。

ちなみに、特定個人のために小説を書いてしまう白石さん。優しい人である。


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