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『花咲ける上方武士道』(読書メモ)

司馬遼太郎『花咲ける上方武士道』(中公文庫)

ゴールデンウィークの休みに寝っころがりながら読んだのがこの小説。

司馬遼太郎が『梟の城』で直木賞を受賞した後、昭和35年頃に書かれた作品なので、娯楽性が高く、講談本に近い。

時代は武士の世の中が終わろうとしている幕末。密命をおびた公家である高野則近が、変な大阪侍や忍者につきそわれ、京から江戸へ旅する珍道中が面白い。

ちなみに則近は、右近衛少将という位にあるえらい人なのだが(お金はない)、剣の達人で、あまり公家っぽくない人。しかし、ときどき自分のことを「麿(まろ)」と言ったりするのでやっぱり公家。

「剣の達人、偉い人、お忍び」という設定は、「暴れん坊将軍」や「水戸黄門」と共通するところがある。幕府おかかえの忍者との戦いなどもふんだんに盛り込まれている。

後に書かれる「竜馬がゆく」や「燃えよ剣」などの幕末モノにあるような緊迫感や悲壮感はなく、おもいっきり肩の力が抜けた作品だ。

ただ、「座敷牢」である京都に300年間閉じ込められていた公家の目から、崩壊していく幕末の世を描写しているところは、さすが司馬遼太郎。

山本周五郎もそうだが、だんだん有名になると、面白おかしい小説から「小難しい小説」を書くようになるんだな、と感じた。晩年の司馬遼太郎は「日本とは」とか「国家とは何か」を語る文化論者になってしまったような気がする(それはそれで凄いと思うけど)。

最近、本を読むときに「この本のメッセージは何か」を考えながら読んでいる自分に気づくが、小説の原点は、やはり単純な面白さやスピード感だと思った。
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