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『心に残る人々』(読書メモ)

白洲正子『心に残る人々』講談社文芸文庫

小林秀雄、青山二郎、梅原龍三郎、岡本太郎、犬養道子など、さまざまな著名人を白洲正子さんが取材した記録である。

そうそうたる人々の中で最も印象に残ったのは、正子さんのお能の先生である梅若実氏。ちなみに正子さんは、4才のときから梅若実さんの下で能を習い始め、50才で免許皆伝を授かっている。

なお、正子さんが11才のとき、梅若実氏の稽古場に通う一方で、自宅でも長男・六郎氏から能を習っていたらしい。お父さんの実氏は教えるのが下手だったのに対し、息子の六郎さんは教え上手であったという。

「実さんは人に教えるにしても決して巧くない、筋道だった理論というものもない、ありったけの自分の持物を、そのまま未熟なものに性急に与えようとするところから、こちらは(それだけの力がないので)めちゃくちゃになり、先生の方は癇癪をおこしてしまう。そんな時六郎さんに解決を求めると、見事に割り切って説明して下さったものです。まことに重宝で完璧な先生であることは、新しいお弟子さん達がすぐ巧くなるのでも証明されますが、いまから考えてみると、そこから貰ったものは「技術」にすぎず、お能の美しさを私に教えたのは、やはり実さんの教え方のまずさであった」(p.78)

この箇所は深い。

価値や神髄」を伝えるには、教え方だけでなく、「情熱」のようなものが必要なのであろう。そういえば、小中高の先生で覚えているのは、教え上手の先生よりも、熱い先生である。

「教え方」を越えて「生き方」が問われるような気がした。

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