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『学ぶ意欲とスキルを育てる』(読書メモ)

市川伸一『学ぶ意欲とスキルを育てる:いま求められる学力向上策』(小学館)

学校教育について書かれた本であるが、企業における人材育成についても多くの示唆が含まれている、と感じた。特に、以下の3点が大事だと思う。

1)「学んだ力」vs「学ぶ力」
学力は「学んだ力としての学力」と「学ぶ力としての学力」に分けられる。前者は、知識、読解力、論述力など、後者は、学習意欲、学習計画力、学習方法などを含む。

「学ぶ力」は、知識を獲得するための、車のエンジンのようなものである。しかし、今の学校では手がつけられていない。

市川先生は、学習の方法にまつわる問題を解決するために「認知的カウンセリング」という概念を提示している。要は、学習方法について子供がどこでつまづいているかをカウンセリングし、自立して学べるようにサポートする試みである。

2)「基礎から積み上げる学び」vs「基礎に降りていく学び」
「基礎から積み上げる学びとは」系統的に基礎から応用へと進む学び方であり、「基礎に降りていく学び」とは、まず目的や意義を感じさせてから、基礎訓練をする学習方法である。

テニスの練習にたとえるなら「ランニングや腕立てで基礎体力を造り、ラケットの素振りをして、やっとテニスの試合をするやりかた」が基礎から積み上げる学びであり、「まずテニスの試合の面白さを味わってもらってから、基礎練習の大切さに気づかせるやり方」が基礎に降りていく学びである。とてもわかりやすいたとえだ。

3)「教えずに考えさせる授業」vs「教えて考えさせる授業」
自己学習力を高めるために「自分で考えさせる」ことを強調する教師がいる。しかし、十分な説明をしないままに考えさせるものだから、結局生徒はわからない。こんな授業が増えているという。

そこで市川先生が提唱するのが、「教えて考えさせる授業」。基本的なことをしっかり教えてから、自分で説明させたり、応用的な課題に取り組ませる方法だ。教え込みすぎず、ある程度のところまできたら、自分で考えさせるところがミソである。

さて、以上3点は、企業においても問題になっていることではないだろうか?

・仕事の成果ばかりに目がいき、「仕事の方法」を改善することに注意がいっていない
・とにかく忍耐して仕事をし、かなり年月が過ぎた後でやっと仕事の面白さがわかる(その間、人がボロボロと辞める)
・あまり仕事を教えずに「背中を見て技を盗め」的な教育方法をとっている

などなど。

市川先生の考え方を採用するなら
・成果が上がらない人の「仕事の進め方」について、認知的カウンセリングをする
・仕事の目的や意義を味わってもらってから、基礎的な訓練や仕事をする
・仕事の基本をしっかりと教えてから、応用的な部分を自分で考えさせる
という具合になる。

子供の教育も、大人の教育も原理は同じである。
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