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『生きがいについて』(読書メモ)

神谷美恵子『生きがいについて』みずず書房

7年をかけて書き上げたという本書を読み、神谷さんの魂を感じた。

神谷さんによれば、生きがいには発達段階のようなものがあり、心の構造が変化する。その変化のありかたが「社会化」と「精神化」である。

社会化とは、他者や人類のために生きることを、精神化とは自己の内なる世界に生きることを指す。

精神化と社会化の関係について神谷さんは次のように説明している。

「多くの場合、この二つは同時に、またはあいついで生じる現象である。社会化によって時空の制約を超え、多くのひとと心をかよわせ、多くのひとのために生きようとするのはまったく精神のはたらきによるわけで、精神化の過程が同時におこっていなければありえない話である。また認識の世界にせよ、美の世界にせよ、精神の領域にふみいるとき、たとえどんなに孤独なひとであろうとも、その精神の世界で以前よりはるかに広い範囲のひとと共感しあうことができ、多くの新しい友がみいだされるはずである。つまり精神化には社会化をともなうことが多い」(p. 210-211)

ハンセン病の歌人である明石海人は、次のような歌を詠んだという。

人の世をはなれて人の世を知り
骨肉をはなれて愛を信じ
明を失っては、内にひらく青山白雲もみた。
癩は天啓でもあった。

(p. 222-223)

インパクトがあったのは、死刑囚たちの俳句集『処刑前夜』からの引用である。

「私わことばや字をならいながら俳句お自分のお友だちとおもいべんきょうしています。俳句はさびしい私のきもちを一ばんよくしってくれる友だちです。俳句をならったおかげで蠅ともたのしくあそぶことができます。火取虫がぶんぶんと電とうのまわりをとんでいるのも私をなぐさめてくれるとおもうとうれしいです」(p. 225)

神谷さんの「大切なのは、新しい精神の世界が発見されることである」という言葉がこころに響いた。


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