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『幸福について』(読書メモ)

ショーペンハウアー(鈴木芳子訳)『幸福について』光文社古典新訳文庫

評伝が面白かったので、とっつきやすそうな本書を買ってみたところ、エッセイのようでとても読みやすかった。

ただ、フロイトやニーチェにも影響を与えただけあって、深い。

ショーペンハウアーの基本的な考え方は、人間を無意識的に駆り立てる本能である「(生への)意思」に従って享楽を追求するのではなく、「苦痛なき、まずまずの人生」を求めよという点。

そのための第1のポイントは「今を大切に生きる」こと。

「現在だけが真実であり現実なのだ。(中略)直接的な不快や苦痛のないまずまずのひとときがあれば、それを意識的そのまま享受すればよい。(中略)過ぎたことに腹を立て、あるいは未来を案じて、現在の楽しいひとときをしりぞけたり、わざと台無しにしたりするのは、実に愚かしいことだからである」(p. 212)

まさにマインドフルネスである。

第2のポイントは「他者の思惑を気にするな」という点。

「他人の思惑をあまりにも重要視しすぎるのは、世間一般を支配する迷妄である。(中略)この迷妄が私たちの行状すべてに過度の影響を、しかも私たちの幸福に有害な影響をおよぼす」(p. 91)「他人の思惑が私たちにおよぼす現実の影響はいかに少ないか」(p. 97)「他人の目にどう映るかで、生き方の価値の有無が決まるとしたら、みじめだろう」(p. 175)

こうしたこともあり、ショーペンハウアーは「孤独な生活」を奨励している。

第3のポイントは「自分の強みを活かせ」ということ。

「人間が自然から賜った能力の本来の使命は、四方八方から迫る困苦と戦うことにある。だが戦い終わると、人間はもはや使っていない能力をもてあますようになる。そこでその能力を「遊び」に用いる、すなわち、何の目的ももたずに用いることが必要になる」(p. 52)「ともあれ、各自が能力にしたがって何かすればよい」(p. 263)

本書においてショーペンハウアーは、アリストテレスをやたら引用しているが、次の言葉も引用していた。

人間の幸福は、自分の際だった能力を自由自在に発揮することにある」(p. 51)

ということで、とても腑に落ちる書であった。



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