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理を尽くして教える

先日紹介した『天の梯』の中に、料理人である主人公・澪が、見習いの少女・ふきに教える場面がある。

包丁加減で大切なのは、食べ易いように切る、ということなの。食べ易さのひとつの目安は、ひと口で食べられるかどうか、ということ。固い物を食べるひと口と、柔らかいものを食べるひと口とは、同じではないのよ」(p.57)

これを聞いた板前の政吉が感心して次のように言う。

「澪さんの教え方は丁寧だ。そうやって理を尽くして教わりゃあ、ふき坊だって決して忘れねぇだろう」(p.58)

日本人は「背中を見て覚えろ」という指導が好きな人が多いように思う。たしかに、他人をよく観察して自分で盗み取ること自体は学習効果が高い。しかし、「理を尽くして教える」ことも合わせると、より効果的であるような気がした。

このときに気をつけなければならないのは、上の人が教えることで、本人が考えなくなったり、受け身になってしまう危険性だ。理を尽くして教えると同時に、さらに深く考えさせる指導が必要になると思った。

出所:高田郁『天の梯』ハルキ文庫

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