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『中坊公平・私の事件簿』(読書メモ)

中坊公平『中坊公平・私の事件簿』集英社新書

なんだかんだいって中坊公平さんの体験記はインパクトがあった(やや自画自賛的な面も感じたが…)。

自分なりのスタイルを確立しているところがすごい。その契機は、独立後にはじめて引き受けた「H鉄工和議申立て事件」にある。倒産したH鉄工所を再建するため、中坊氏は作業服を着て工員たちとともに働き、信頼を得ていく。

中坊氏は振り返る。

「私には、私を引き上げてくれるような法曹界のボスはいないし、ツテもコネもない。ましてや、不勉強で特に法律に強いわけでもない。そんな私がこの世界で生きていくためには、誰より現場を知り抜くしかないということをこの事件を通して悟りました。現場に足を運び、五感を総動員すれば問題の本質が見えてきますし、法律だけに頼らない迫力、説得力が出てきます。相手方よりも、裁判官よりも現場をよく知っていることから生まれる力。ここで勝負しようと考えたわけです」(p.18)

「現場を知り抜く」という、普通の弁護士が面倒くさくてやらないことを徹底的に行い、事件の本質をつかんでいく中坊氏。「ふつうだったらやらないこと」の中にこそ、競争に勝ち、自分なりの色を出していくヒントが隠されているような気がした。

住専処理の問題で弁護士を廃業した中坊氏であるが、その後の活動が止まっているように感じる点は残念である。弁護士という肩書がなくとも、社会に貢献できる余地はたくさんあるように思った。





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