新冷戦の最前線、台湾を行く
先月26日、台湾の台北市内でバイクに乗った市民たちが信号待ちをしている=台北/チェ・ヒョンジュン特派員//ハンギョレ新聞社
「米国はウクライナと国交があるにもかかわらず、ロシアが侵攻しても派兵しなかった。台湾は米国と国交もない。米国が有事の際に台湾に派兵すると信じるのは合理的ではないと思う」
先月29日、小雨の降る台湾・金門島の国立金門大学で会ったファン・ボオルさん(20)は、この1~2年の間で米国に対する考えが大きく変わったと話した。以前は、中国が台湾に侵攻したら米国が積極的に支援するだろうと考えていたが、そのような期待は弱まったということだ。ファンさんは「最近は中国との関係を改善することが台湾の安保に役立つと思う」とし「ある程度距離を維持しなければならないが、今のように戦うだけでは良くない」と話した。台湾の金門島は、本島の台湾島からは200キロも離れているが、中国福建省の廈門(アモイ)との距離はわずか2キロだ。
台湾南部の高雄の高雄大学で会ったチャン・ジュンディさん(20)も「台湾自身の力を強くしなければならない」と語った。「米国は台湾にとって重要な国ではあるけれど、あまり依存してはならない」。高雄は長年、親米・独立性向の強い現政権与党である民進党を支持する地域だ。
2024年1月に予定される台湾総統選挙を9カ月後に控えた台湾で、米国に対する「疑心の強まり」が感じられる。中国が武力を使った統一方針を放棄していない状況で、台湾は米国の「武器販売」など安保支援に絶対的に依存している。しかし、昨年2月末に始まったウクライナ戦争を契機に、米国を見つめる台湾の目つきは大きく変わった。台湾人の伝統的な「米国依存」心理が「米国疑心」に変わったのだ。米国はウクライナ戦争に351億ドルを超える軍事支援を行っているが、第3次世界大戦を避けるべきだとして直接介入はしていない。今年2月、台湾民主基金会が成人1072人を対象に調査した内容によると、「中国が台湾に侵攻したら米国は派兵すると思うか」という質問に対し、「派兵しない」と答えた人が46.5%で「派兵する」と答えた人(42.8%)より多かった。ウクライナ戦争勃発4カ月前の2021年10月には、同じ質問に「派兵する」と回答した人は65%で、派兵しないという回答(28.5%)の2倍以上だった。
かつては中国との「統一か独立か」が主な話題だった台湾は、今や「親中か、親米か」が社会全体を貫く主要な論点になった。2018年以後、台湾は米中がぶつかる地政学的激戦地になり、中国の習近平国家主席が率いる中国が台湾に対する軍事威嚇を強めたことで生じた変化だ。さらにウクライナ戦争に対する米国の態度が加わり、台湾世論は複雑に分かれている。
野党国民党の馬英九元総統が先月27日から11日間中国を訪問し、2日後の29日、与党民進党の蔡英文総統が中米2カ国への訪問の際に米国を訪れたのも、このような流れを反映している。台湾保守勢力を代表して長い間政権を握ってきた国民党は、中国との交流による経済活性化を政策基調としている。これに対抗して2000年代に入って政権を握り始めた民進党は、米国との同盟強化を通じた安保と経済の強化を主張する。2人の出国時には、それぞれ異なる陣営の市民が空港周辺で抗議デモを行った。
台湾・金門島の西海岸にかつて中国軍侵攻を防ぐために設置されたバリケード=金門/チェ・ヒョンジュン特派員//ハンギョレ新聞社
米国に対する信頼に亀裂が生じると、中国との交流拡大の要求がその隙を突いて湧き出している。蔡政権の成立後の中国との関係悪化で生じた安全保障への不安による疲労感が主な原因だ。これより大きいのは民生に対する不満のようだった。昨年の台湾の総輸出に中国が占める割合は38.8%。コロナ禍以前の2019年には、271万人の中国人観光客が台湾を訪れた。その年の台湾全体の観光客の22.9%にのぼる。TSMCなど台湾の先端技術企業が集中している新竹科学団地で会ったカオ・ウィパンさん(29)は「米国は台湾に兵器を売ることばかり考えているようだ」とし「中国は多くの人が台湾に観光に来てお金もたくさん使う。大陸から観光客がたくさん来てこそ、私たちの生活も良くなる」と話した。そのためか、今年1月の民主基金会の世論調査で「現政権の経済成果に満足しているか」という質問に対し、「満足している」という回答は34.9%(不満51.7%)にとどまった。台湾は昨年、1人当たりの国内総所得(GNI)が3万3565ドルで韓国(3万2661ドル)を上回ったが、大卒者の初任給は月120万~150万ウォン(約12~15万円)で韓国の半分の水準だった。経済成長の果実が均等に分散していないのだ。
しかし、中国との交流拡大要求よりも重要なのは、台湾のアイデンティティだった。台北で会ったある30代の会社員は「台湾で中国との統一を望む人は見つからないだろう」とし「中国との関係改善には同意するが、適当な距離は維持しなければならない」と話した。2019年の香港送還法(香港国家安全維持法)反対デモ以後、香港で起きている「中国化の風」は台湾の両岸統一世論を事実上鎮めた。2018年に支持率が20%にまで下がった蔡英文総統が2020年に再選に成功したのも、選挙直前に起きた中国の対香港強硬策のためだという分析が主流だ。台湾国立政治大学選挙研究センターの調査によれば、昨年末の台湾における統一を望む世論は7.2%で、2018年の15.9%から半減した。
これをよく知っている中国は、来年1月の総統選挙を控えた台湾に対して、昨年に比べて柔軟な態度を取っている。蔡総統の米国訪問に対する軍事的対応は、昨年8月のナンシー・ペロシ米下院議長(当時)の訪問時よりはるかに弱かった。
台北・金門・高雄(台湾)/チェ・ヒョンジュン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)