きょうの潮流
振り返れば今年も放送への意見・注文が続きました。年の瀬にあたって明るい話題を一つ。小さな放送局KBS京都が50億円もの借金を25年がかりで返済し、再建を果たしました
▼その闘争はドラマチックです。KBSの歴史は古く、1951年、全国5番目に開局。地元では身近な放送局として親しまれてきました。89年にとんでもないことが発覚します。放送局が丸ごと担保になっていた―。ずさんな経営が原因でした
▼倒産寸前の危機をはね返したのは労働組合と市民の共闘です。「京都の放送の灯を守ろう」。組合が街頭署名を募りました。集まったのは40万人分。民放労連や全国の支援も受け、組合は会社更生法の申請に踏み切ります。初めて聞く法律用語を前に組合員は猛勉強。弁済にはボーナスの半分をあてました
▼市民参加の番組作り、地域懇談会、憲法9条を守り、政権の放送介入に反対する。組合の取り組みは豊かでユニーク。全国で唯一、番組審議会委員を市民から選出しています
▼組合は「地域メディアとしての存立を確保する視座を持っていた」と須藤春夫法政大学名誉教授は評価します。局が送り手で視聴者が受け手。そんな固定観念はありません。市民参加でメディアの公共圏を形成しようとする試みへと発展します
▼放送はジャーナリズムであり、二度と戦争のためにマイクは握らない―。テレビへの信頼が問われている現在、KBS再建闘争を通じて、市民と放送労働者が高く掲げてきた共通の信念は貴重です。