先週いっぱいでNHK朝の連続テレビドラマ『おちょやん』が終了しました。あまり視聴率は振るわなかったようですね。この番組についてこちらの記事が印象に残りました。
筆者の碓井広義氏がご指摘なように、
>ドラマにあったように、まるで天外と「和解」したような形で、同じ舞台に立つなど、あり得ません。
このドラマをきれいに終わらせるためには、道頓堀の舞台に2人が並ぶことが必要だったのでしょう。
けれど、千栄子の自伝『水のように』にも、ラジオドラマと並行して、天外と共演したという記述は出てこないのです。
その代りに、天外に向けた、こんな言葉を残しています。
「よく、ひっぱたいてくださいました。よく、だましてくださいました。よく、あほうにしてくださいました。ありがたく御礼を申しあげます」
>千栄子にあって千代に欠けていたのは、人間としての「凄(すご)み」と、女優としての「艶(つや)」でした。
もっと言えば、千栄子の持つ「業(ごう)」のようなものが、ドラマの千代には希薄だった。
千栄子との重なり過ぎを怖れず、きちんと描くべき「葛藤」と、それを伝える「物語」が、やや不足していたのです。
そのため、どこか隔靴掻痒(かっかそうよう)のキレイゴトに見えてしまう部分がありました。
というわけで、モデルとなった浪花千栄子の人生というのはそうとうに壮絶なものであり、それをリアルに演じたり表現していたら、とても朝のテレビドラマなんぞになるものではありません。それは仕方ないですが、そう考えるとはたして朝の連続テレビドラマの題材として適当なのかなあという気はします。そもそも今の時代彼女を現役で知っている人たちって、彼女が亡くなった1973年時点で十代くらいでしょうから、そうなると一番若くて60過ぎですよね。それ以降の人で彼女を知っている人って、たぶんこちらの看板じゃないですかね。
いまどきこの看板だって、この種のものを商っている店くらいしかないのかもですが、やはり同じグループ会社のオロナミンCやボンカレーのこれらの看板やパッケージ同様ある種の時代の顔だったかもですね。
話が飛びましたが、浪花千栄子の夫だった2代目渋谷天外は、上の碓井氏もお書きのようにすさまじい道楽者であり、彼女もひどい苦労をしていたわけです。また、浪速千栄子のWikipediaにもあるように
>辯天宗では婦人部長として活動していた。
というわけで、新宗教(新興宗教)の幹部も彼女はしていました。まさかこんな話、NHKの朝のドラマで取り上げられるわけありませんよね(苦笑)。
それで私は突然、「あ、彼女とよく似た立場の女性いたなあ」と気づきました。まだご存命なこちらの方です。
このような写真も。
中村玉緒は、夫の勝新太郎がすさまじい道楽者であり、おまけになまじ演出やプロデュースの才能があったせいもあり、莫大な借金をこさえてしまいました。息子と娘がいましたが、2人ともヤクでパクられたり息子が映画の撮影中過失で俳優を死なせるという最悪の事態になったり、勝がドラッグでパクられたり、俳優としてものにならなかった息子は孤独死をしてしまう始末です。鴈龍の死については、私も記事を書きました。
勝新太郎の息子は、俳優稼業を続けていなければ、まだ死なないで済んだと思う
それでその関係で最近こんな記事まで発表されましたしね。
中村玉緒 長女が車いす生活に…81歳で直面した逆介護の悲痛 ...
この記事では名前は出ていませんが、娘の名前は奥村真粧美です『警視-K』では勝の娘を演じていましたが、けっきょく女優としてはあまり活躍しませんでした。私もこのドラマについては、記事を書いています。
勝新太郎の主演・プロデュース・半分以上のエピソードで脚本・監督をつとめた『警視-K』がCSで放送される(あと『消えた巨人軍』も)
そうこう考えると、中村玉緒ほどすさまじい人生を送った芸能人もそうはいないんじゃないんですかね。歌舞伎俳優二代目中村鴈治郎の娘という恵まれた出自で、女優としてもバラエティタレントとしてもすごい才能があり成功をしたにもかかわらず、夫が借金をこさえるわドラッグで逮捕されるわ、子ども両方がドラッグでパクられ、息子は一人前になる前に孤独死してしまい、娘は事情は不明ですが介護が必要な身体になってしまいました。お孫さんはいないようだし、うーん、そういっては身もふたもないという次元ですが、彼女自身そうとう苦しい人生を送っているはずで、こんな朝ドラのネタにふさわしい人間は、そうはいませんね。彼女が亡くなって半世紀くらいたてば、あるいは彼女をモデルにしたドラマができるんじゃないんですかね。しかし内容はそうとうソフトになりそうです。あんまりえげつない話にはできない。
が、いずれにせよかなりすさまじいストーリーにはなるかと思います。これはこれでなかなか興味深い気がします。というわけで、いつの日かわかりませんが、ドラマが制作される日を期待したいと思います。
ところで浪花千栄子と勝というと、こちらの映画が私など印象に残りますね。
主人公を勝が、その舎弟を田宮二郎が演じてヒットしてシリーズ化した作品の第1作で、ネタバレになるので詳細は略しますが、浪速が自分を裏切った勝を海岸でステッキにより打ち付けるシーンは強烈でした。この作品には中村玉緒も出演していますし、『続悪名』には中村鴈治郎まで出演しています。これもなかなか貴重です。ソフトもありますし、CSなどでも放送されますので、興味のある方は乞うご鑑賞。
「残念ながら数年前に消滅した東海テレビの昼ドラ」それも
「原作・脚本花登筺の路線例えば『あかんたれ』辺りの路線」
向きな気が(ご存知かも知れませんが、花登筺自身も彼ら彼女らに負けず劣らずの泥沼人生)。
後年、関西を舞台にした映画(「夫婦善哉」など)で本業を見たときは、さすがの「綺麗な大阪弁」に感心したものです(生まれは富田林市(=大阪南部)ですが、道頓堀に女中奉公していたので、今ではめったに耳にしない本物のいわゆる「船場言葉」が聞けるのです)。
>中村珠緒
確かにそうですね。自伝でも書いてドラマ化されれば相当な物語になりそうです。
そういえば、一線で活躍していた芸能人の女性の中には、なかなか壮絶な背景を持った方が昔はいましたよね。美空ひばり、島倉千代子なんかの過去事も知られていました。
>線で活躍していた芸能人の女性の中には、なかなか壮絶な背景を持った方が昔はいましたよね。美空ひばり、島倉千代子なんかの過去事も知られていました。
時代が変わったので、この種のすさまじい過去がある人というのもあまりないでしょうが、将棋なでも大山や舛田といった人たちの時代はそうとうに貧しい出自だったようですから、そういうことが過去になったのも当然ながらよかったと思います。
最近は「売れないから貧乏」という人の方が多いのかもしれませんが、一方で、例えば「数打って当てよう」的に量産する女性歌手(アイドル)の世界なんて、比較的収入が安定している家庭の子たちを事務所側が選択するようで、要は「売れない場合」の給与補填として実家の仕送りをあてにしたり、また退職、引退の決断が容易になるよう見越しているそうで、それはそれでなんだかなぁという気はします。
バブル期に入る前の時代で、その手の話がもっとも有名なのは彼女ですかね。
近年でも、かつての貧乏話をネタにして本を出したり、バラエティ番組で暴露したりなんてのはあるにはあるのですがね。
芸事でも勝負事でも、貧困からの脱出や、あるいは「貧困に対する憎悪」みたいなものが、ものすごいエネルギーとして「凄み」となったドラマティックな生き様を表出させた場合、それが(どういう形であれ)伝説的に残っていくのでしょうね。
>芸事でも勝負事でも、貧困からの脱出や、あるいは「貧困に対する憎悪」みたいなものが、ものすごいエネルギーとして「凄み」となったドラマティックな生き様を表出させた場合、それが(どういう形であれ)伝説的に残っていくのでしょうね。
そういう点でいうと、野村克也、沙知代などは、貧乏というものの憎悪を感じました。ある人が、奥さんのほうは、金を最も好きで、そして金を最も憎んでいると評していましたが、言いえて妙ですね。多分ですが、奥さんが子どものころは、金がないという彼女に責任がないことで、ずいぶん教師から叱責されたこともあったのではないか。