ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

この本で沖縄戦を勉強したい

2019-06-24 00:00:00 | 書評ほか書籍関係

このブログでも以前に、6月下旬ごろに沖縄戦関係の記事を書いています。

沖縄戦の番組を見て、「ペリリュー・沖縄戦記」を再読しようと思った(6月24日発表)

それで先日、地元の図書館で次のような本を借りました。

沖縄戦を知る事典: 非体験世代が語り継ぐ

今年の5月に出たばかりの本ですが、28人の筆者により沖縄戦についていろいろなアプローチがされています。非常に読みやすく、またブックガイドも充実しています。これはおすすめです。

沖縄戦についての本はたくさんありますが、やはりトータルに沖縄戦の全史をとらえて、またその前の歴史から集団自決問題ほかについて周到に書かれた本は少ないし、またそれらはかなり分厚いものとなり読むのも大変です。が、この本はAmazonによれば204ページと手ごろです。

内容は、それぞれの分野に強い筆者たちがいろいろ書いています。研究者だけでなく教員なども執筆していて幅広い著者から幅広くさまざまな知見を得ることができます。Amazonを引用します。

内容紹介

アジア太平洋戦争末期、住民を巻き込んだ戦闘が展開され、「鉄の暴風」が吹き荒れた沖縄。戦闘経過、住民被害の様相、「集団自決」の実態など、67項目からその全体像を明らかにする。豊富な写真が体験者の証言や戦争遺跡・慰霊碑などの理解を高め、今も残る沖縄戦の姿をリアルに感じる構成。?なぜ今沖縄戦か?を私たちに語りかけてくる読む事典。

内容(「BOOK」データベースより)
戦後七四年を経ても続く沖縄の基地問題。今こそ沖縄戦の教訓を伝えるべく、新たに収集された史料や証言をもとに編纂した座右必備の事典。研究者・ジャーナリスト・資料館の学芸員・地域史編集者・教員など、沖縄戦を語り継ぐ現場で活躍する非体験世代二八人が結集。心の傷・秘密戦・移民・障がい者・ひめゆり学徒など、図版を交え平易に解説。とこから読み始めても沖縄戦の実相に辿りつける。個別の具体的な事例を豊富な盛り込み、沖縄のどこで・何を学べるかが分かる情報が満載。平和学習の手掛りを示す。さまざまな立場の人々の体験をまとめたコラムを収載。読書/博物館/戦跡コース/兵器の各種ガイドなど、付録も充実。

それにしても表紙の写真、映画のワンシーンのようですね。この記事でのせた写真ではわかりにくいかもですが、一番右の女性は、子どもを背負っています。彼女らは助かったわけですが、この後相当苦難の人生を歩んだのかもしれません。米軍の問題(強姦ほか)も論じられています。

ほかにも沖縄戦に関する文学作品や、ひめゆり部隊に参加した人たちのその後、沖縄戦でのハンセン病患者、身体障碍者(精神障害者をふくむ)の苦難などもにも項目があてられています。この本を読めばブックガイドも充実していますし、大変勉強になります。

それで私が印象に残ったのが、林博史氏による島田叡知事への厳しい評価です。林氏は、

>「一〇万人を超す命を救った」、あるいは二〇万人を救ったとして当時の県知事や警察部長を賛美する主張がある。はたして事実に照らしてそう言えるのだろうか。人々を戦争に駆り立てていった行政や警察を美化していいのだろうか。(p.70)

としたうえで、

>島田知事が一〇万人を救ったというのは何も根拠がない。(p.71)

>いくら軍が強く要求したとしても、知事が死を覚悟して沖縄に赴任してきたとするならば、法的手続きを無視したやり方に異議を唱え、少年たちを守ろうとする努力をしれいれば、と考えるのは無理な注文だろうか。(p.72)

と書き、さらに沖縄県・島田知事が1945年4月27日に行った指示事項と訓示を紹介したうえで、

>こうした知事の言動を「本当に言いたかった」ことではないと何の根拠もなく解釈し、知事を弁護する向きもある。知事の側にいた人のなかには、命を大切にするように言われたと語っている人もいるが、それは知事と個人的なつながりのある人だけの話であり、一般の人々は新聞に掲載されたことを文字通りに受けとめるしかない。知事として県民に対して公的に語ったことと、身近なものだけにこっそりと語ったことが違っていた場合、後者をもってその人物を評価してよいのだろうか。島田知事は人柄としては人望のある人物だったようだが、公職にあるものは公的な言動で評価されるべきではないだろうか。(同上)

と厳しく追及しています。そして林氏は、

>近年、こうした知事や警察部長らへの美化論が本土から多く出てくるのはなぜだろうか。沖縄戦でも戦後の米軍基地についても沖縄を犠牲にし続けている本土が批判されている中で、自分たちの強度の出身者が沖縄の人々を助けたと思うことに追ってホッとしたいという癒しへの願望が作り出した幻想ではないだろうか。(p.73)

とまとめたうえで、

>公人がその職務上、何を行ったのか、事実に基づいて議論するべきではないだろうか。(同上)

と書いてこの項をしめくくっています。林氏の島田知事への厳しい評価は、林氏のこちらの本からのものです。2001年の本です。この本よりかなり厳しい書き方になっているのは、研究がすすんだということもあるでしょうし、また島田知事を取り上げたテレビドラマが放送されたこともあるのかもしれません。

沖縄戦と民衆

島田知事のやったことは、けっきょくのところ軍への迎合ではなかったか、彼は沖縄県民をその可能な範囲で守ったのかというのは、これからも問い続けなければいけないことだとあらためて痛感しました。「沖縄戦と民衆」を読んだのはずいぶん以前ですが、やはり再読しないとです。今回ご紹介した本も、この「沖縄戦と民衆」が、大きなバックボーンになっていると思います。

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7 コメント

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Unknown (bogus-simotukare)
2019-06-24 05:33:39
 まあ個人的には「島田の前任・泉=まるで安倍」みたいな理解があって「安倍批判的な意味合い」で美化されてるのかなあという気はします。
 ただ評価も難しいですよね。沖縄戦研究の大家・林氏の見方を安易に否定する気もないですけど。
 「与えられた条件」を無視することは出来ない反面、「与えられた条件」を重視すると「仕方がなかった」と容認方向に傾きがちになるし。

>島田知事が1945年4月27日に行った指示事項と訓示

 個人的にはそうした島田の行為については(いろいろと事情は違うでしょうが)「退官後に日米核密約の存在を認めた元外務事務次官」「退官後に朝鮮学校無償化除外を批判する前川元文科次官」を連想しますね。前川氏らも在任時のふるまいでは批判されざるをえないでしょうが、ただ「退官後でもそういうことをしただけマシ」つう気持ちはあります。
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>bogus-simotukareさん (Bill McCreary)
2019-06-24 20:32:17
前川氏らは、その後に彼らなりの意見を言えますからまだいいですが、島田知事はけっきょく死んじゃいましたからね。彼自身は米軍につかまる意思はなかったのでしょうが、敗戦後に「あれはまずかった」というか、「しかたなかった」とか自分の意見をいえれば、いい悪いはともかくまた彼に対する印象や評価も違ってくるでしょう。

泉知事は軍部と関係が悪かったので、そういう意味では牛島司令官とも知り合いだった島田知事の就任は、軍部にとってもうってつけでした。
返信する
島田叡の戦争責任 (bogus-simotukare)
2020-08-28 06:14:20
 既にご存じかもしれませんがこんな記事がありますね。

https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/e/b2aea33104a08e8fb10d553fa189d93e
 川満彰さん(名護市教育委員会)がこう述べたのです。
 「陸軍中野学校出身の離島残置諜者(離島に残って諜報活動を行う兵士)に教員免許を交付(「沖縄県青年学校指導員」「沖縄県国民学校訓導」を辞令)したのは島田叡だ。その戦争責任はどうするのか」。
 島田知事は大本営直属のスパイの偽装に手を貸したというわけです。

https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/e/cdf2c1e5776567c2da6f80fee63f2bb9
 23日付の琉球新報、沖縄タイムスは、沖縄戦当時の島田叡(あきら)県知事、荒井退造警察部長を描いた映画「島守の塔」(五十嵐匠監督)の「製作を応援する会沖縄」が22日結成されたと大きく報じました。
 結成式で五十嵐監督は「島田さん、荒井さんの偉人伝を作るつもりは全くない」(23日付琉球新報)と述べていますが、「極限状態の沖縄戦で、人間は他人を思うことができるのかということがテーマだ」(同)としており、島田知事や荒井部長が美化されるのは必至でしょう。琉球新報も島田知事を「沖縄戦当時、食糧確保や疎開に尽力したとされる」と好意的に紹介しています。
 かつて島田知事と荒井部長を描いたテレビドラマが放送されたこともあり(2013年8月TBS系)、両氏を「偉人」とする見方は「本土」でも少なくありません。
 しかし、これは事実に反した評価・美化(中略)です。
 『沖縄戦を知る事典』(吉浜忍・林博史・吉川由紀編、吉川弘文館、2019年、P70~73、林博史氏執筆)から抜粋します。
<内務省は「(ボーガス注:軍と対立した前任者・泉守紀とは違う)軍の司令官らと協調してやってくれる知事」として島田叡を選んだ(当時の警保局長の証言)。沖縄県民を犠牲にしようとする軍に対して県民を守ろうとするのではなく、軍の要求にこたえる知事として選ばれたのである。
 知事のきわめて重大な行為の一つが、鉄血勤皇隊への学徒の動員である。第32軍司令官、沖縄連隊区司令官(徴兵業務を担当)、沖縄県知事の三者による覚書がある。14歳から17歳までの学徒の名簿を作成して、県知事を通じて軍に提出し、その名簿を基に軍が学徒を鉄血勤皇隊に軍人として防衛召集し、戦闘に参加させることが取り決められていた。県知事は本来兵士に召集される義務のない学徒を軍に提供した。いくつかの史料からこれは島田知事によるものと考えられる。
 1945年4月27日、市町村長会議が県庁壕で開催された。この会議で(島田は―引用者)米軍が住民まで皆殺しにすると恐怖を煽り、住民にも一人残らず竹やりなどを持って戦うように指示していた。>
 以前(2013年)、琉球大学で行われたシンポジウムで、郷土史研究家の川満彰氏(名護市教育委員会)が、島田知事についてこう述べたことがあります。
 「陸軍中野学校出身者の離島残置謀者(離島に残って諜報活動を行う日本兵)に(偽装のための)教員免許を公布したのは島田叡だ。その戦争責任はどうするのか」
 島田叡と荒井退造は「本土」政府・大本営に忠実に従って沖縄戦を遂行する官僚として送り込まれ、事実その通り行動したのです。その島田、荒井を評価・美化することは、誤りであるだけでなくきわめて危険な意味を持ちます。
 「今日、有事(戦時)法制を考えるとき、地域の戦争体制を作るのは自衛隊というより警察を含めた行政機関である。沖縄の戦時体制を作った行政・警察を美化することはこの問題から人々の目をそらせることになりかねない」(林博史氏、前掲『沖縄戦を知る事典』)
 沖縄戦から75年。事実を正確に掘り起こし、教訓を導くことが改めて重要になっているいま、島田、荒井を美化することはまさにそれに逆行するものと言わねばなりません。
 さらに重大なのは、この「映画『島守の塔』製作を応援する会沖縄」の「呼びかけ人」47人に、琉球新報、沖縄タイムス、琉球放送、沖縄テレビ、琉球朝日放送など、沖縄メディアの代表が揃って名を連ねていることです。沖縄メディアの見識が問われます。その責任はきわめて重いと言わざるをえません。
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>bogus-simotukareさん (Bill McCreary)
2020-09-12 22:11:45
どうもご紹介ありがとうございます。このあたり沖縄でも、たぶんこれからは単純な島田知事美化というのは異論が出てくるようになるのかもですね。それは、沖縄戦研究の進歩でもあるし、非常にいいことだと思います。
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Unknown (bogus-simotukare)
2024-06-08 19:29:57
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-3156748.html
琉球新報
<社説>HPに牛島司令官辞世 自衛隊は「皇軍」に戻るのか
 自衛隊は、日本を再び「皇国」とし、自らを「皇軍」にしたいのか。「誤解を招く」ではすまない事態がまた明らかになった。那覇市に拠点を置く陸上自衛隊第15旅団が、ホームページ(HP)に第32軍・牛島満司令官の辞世の句を2018年から掲載していることが分かった。
 辞世「秋待たで 枯れ行く島の 青草は 皇国(みくに)の春に 甦らなむ」は、沖縄を焦土とし多数の住民を死に追いやった責任者である司令官が、皇国において沖縄が甦ることを願う内容だ。それを今、自衛隊が掲げることは、日本国憲法の理念からも、県民感情からも到底許せるものではない。ただちに削除を求める。
 第15旅団は2004年以降、旅団長らが毎年6月23日の慰霊の日に牛島司令官らを弔う糸満市摩文仁の「黎明(れいめい)之塔」を参拝して批判を受けてきた。2022年から中断しているが、第15旅団は、「皇国」を称揚し、第32軍と連続性を持とうとしていると受け止めざるを得ない。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/okinawa/20240605/5090028039.html
NHK『陸自第15旅団ホームページに旧日本軍司令官の辞世の句』
 沖縄戦を指揮した司令官の句を陸上自衛隊第15旅団がホームページに掲載していることについて、日本の安全保障政策に詳しい中京大学の佐道明広教授は「沖縄県民は沖縄戦で悲惨な戦闘に巻き込まれた経験から、軍隊は住民を守らないという強い意識があり、本土復帰後に配備された自衛隊に対し当初はすごく反対した。その後、自衛隊は急病患者の搬送や不発弾の処理などを地道に積み重ね、県民の信頼感を少しずつ獲得していった」と述べました。
 そのうえで、佐道教授は「旧日本軍とつながることばをホームページに掲載すると、『自衛隊は旧日本軍と同じなのだろうか』という不信感を沖縄県民に改めて植え付けてしまうのではないか。重要なことは、旧日本軍とは違い、自衛隊は国民を守る存在だといかに示していけるかということで、そのためには、住民の感情に敏感になり、住民の目線というものをきちんと考えていくことがとても大事だ」と指摘しました。

https://www.qab.co.jp/news/20240604213301.html
琉球朝日放送『陸自15旅団、Webに旧日本軍牛島司令官の「辞世の句」掲載/識者「旧日本軍とのつながりを意識させる」』
 中京大学・佐道明広教授は「自衛隊はかつての旧帝国陸軍とは違うと遠隔地での急病患者の搬送とか不発弾の処理とか、地道に活動して、沖縄の人たちに時間をかけて受け入れてもらった。15旅団を師団化をするという話しがある中で、自衛隊の存在に対して、地域住民の関心が高まりつつある中で、旧軍との連続性を表に出すのはどうなんだろう。住民のことをもう少し考えたほうがいいのに、住民への意識が欠如しつつある」と話しました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2e98f091aa7ae506df95106ce767fe5349374a2f
沖縄テレビ『陸上自衛隊第15旅団ホームページ掲載「辞世の句」 沖縄戦研究の有識者などが削除求める』
沖縄国際大学・石原昌家名誉教授:
「現在の自衛隊がこのような風に(ボーガス注:牛島司令官の辞世を)大事に扱うということは、それはまさにあの沖縄戦における第32軍と同じような戦闘意思をもって戦争に備えるというのが、口先だけじゃなくて、現実化しているというそういうものがひしひしと伝わってくる」
(引用終わり)

 どれほど非常識なのかと自衛隊には心底呆れます。
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島田、荒井美化の批判記事 (bogus-simotukare)
2024-06-09 06:15:45
https://bogus-simotukare.hatenadiary.jp/entry/2024/06/09/061404でも紹介しましたが。
https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/e/8191d71619c1780ecd77e9f6aa3cc7e1
https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/e/044188842dd088172fceae08c40ddf72
https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/e/905bd8e81c0daab5ab0ed538a04d9c55
https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/e/4f1d0ae5bcab22a815fc056a3c8d8412
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>bogus-simotukareさん (Bill McCreary)
2024-06-11 00:02:27
林氏の新刊本を今日入手しました。楽しみに読んでみます。
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