暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

良寛さん

2010年08月07日 | 2010年の旅
暑い夏ですが、ようやく今日が立秋ですね。ふうっ~~。
うんうん唸って?書いた「良寛さん」の原稿が一瞬で消えてしまって
大ショックでした。ようやく思い直して書いたものを投稿します。
不思議なことに前稿とは全く別のものになりました・・・。

夏休みの旅行で新潟、長野方面に出かけました
旅の主な目的は長岡市近辺に点在する良寛の書と旧跡を訪ねることでした。
出発前にあわてて本2冊を読み、インターネットで調べたものの
良寛について今ひとつピンと来ませんでした。

「天上大風」
という書(コピー)を見たとき、
「えっ!これが有名な良寛さんの書?」

良寛が托鉢のため里へ下りていくと、村の子供たちが紙と筆を持ってきて、
「これに字を書いてくれ」とねだりました。
良寛がどうするのかと尋ねると、凧にするというのです。
「よしよし」と快く書いたのが「天上大風」だったそうです。

ほほえましいエピソードを読むと
「天上大風」の凧が大風に乗って勢いよく空高く上がっていく様と
子どもたちに慕われたという良寛像が想像されます。

出雲崎の生誕地に立つ良寛堂を訪れました。
堂内の石塔には、良寛が持ち歩いたという枕地蔵と
生母の故郷の佐渡を歌った自筆の和歌が刻まれていました。

   古へに変はらぬものは荒磯海と
      向かひに見ゆる佐渡の島なり

                


良寛の書に初めて出会ったのは出雲崎町の良寛記念館でした。
展示されている書には和歌、俳句、漢詩、経文、手紙などがあり、
書体も楷書、行書、草書と多彩です。
書かれた年代も様々なので、同一人の書とは思えないものもありました。

その中で「国上(くがみ)の山を出づるとて」という
「安之悲幾能(あしひきの)・・」に始まる長歌に惹きつけられました。
現代語訳でご紹介します。

   あしひきの 国上の山の やまかげに 庵しめつつ
   朝にけに 岩の角道 ふみならし いゆきかへらひ
   まそかがみ 仰ぎて見れば み林は 神さびませり
   落ちたぎつ 水音さやけし そこをしも あやにともしみ
   春べには 花咲きたてり
   五月には 山時鳥 うち羽ふり 来鳴きとよもし
   長月の しぐれの雨に もみじ葉を 折りてかざして
   あらたまの 年の十とせを すごしつるかも 
                        良寛書

国上山の五合庵、雪に閉ざされた静寂の中、
無駄なものを一切削ぎ落とした庵の暮らし、
精神を集中して書に向っている良寛の様子、
書へ打ち込まれた気迫が行間から迫ってきました。

崩した万葉仮名はほとんど読めないのですが、
それでも香りたつような書の魅力を感じました。
伸びやかな筆の気品溢れる書です。
「こんなに素晴らしい歌と書を書く御方だったのだ!」
はるばる訪ね来て良かった!と思いました。

              
              

「天上大風」とは趣の異なる良寛の書に主人も感動したようです。
主人のお気に入りは扇面に書かれた俳句です。
短いので原文のままと現代語訳と、両方を書いてみましたが、
原文はまるで?判じ物のようです。

   秋日寄里 世無羽す々 め能者遠東 可那   良寛書
   (秋日より 千羽雀の 羽音かな)

良寛の書に触れて、やっと良寛さんが心の中に浮かんできました。
またどこかで良寛さんの書に出会うのが楽しみになりました。
 
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   写真は、「良寛と夕日の丘公園から佐渡を望む」
        「良寛堂の石碑」 「国上山の五合庵」 「五合庵内部」    

はつ風の香席 (2)

2010年08月04日 | 茶会・香席
(つづき)

心、扇、露の三炷(ちゅう)が順番に焚かれました。
「いつもは三息(さんそく)と云って三回聞きますが、
 今日は五名様なので何回でもゆっくり聞いてください。
 そしてメモしてください」

腹式呼吸で呼吸を整え、無心になってゆっくり深く聞いて、
香りの特徴やイメージを全身で捉えます。
それから「心」と、香銘を名乗って次の方へ回しました。

三炷を聞き終わってから、三炷の内の一炷と、
もう一つ今まで焚かれていない一炷(ウと言います)を
打交ぜて、さらに二炷(本香)が焚かれました。
本香の一番目は「出香(しゅっこう)」、
二番目は何も言わずにまわします。

この二炷(本香)が何であるのかを当てるのです。
本香の組み合わせは次の六通りの何れかになります。
  ウ 心、  心 ウ、
  ウ 扇、  扇 ウ、
  ウ 露、  露 ウ

本香2種を聞いて、名乗り紙に筆で名前と組合わせ(答え)を書きました。

微かな香の特徴を捉えるのは、とても難しい・・と思いました。
また、メモが貴重で、メモがないとますます深く迷いそうです。
本香の二炷目を聞くと、最初にツンと来る微かな香を感じました。

あとで考えれば、素直にこの印象を大事にすれば良かったのですが、
二通りの組み合わせができ、迷いました。
正解を伺うと、もう一つの方が正解でした。

いかに無心になれるか、
茶カブキ之式の偈頌(げじゅ)が頭をよぎりました。
「千古千今裁断舌頭始可知真味」

              

こうして優雅にして奥の深い香席が終り、
Iさんの心づくしの手料理を美味しく頂きました。
ご主人がアラスカまで釣りに行ってあちらで作ったという
スモークサーモンが香りといい、味といい、絶品でした!

午後は茶席となり、Wさんが初炭、Yさんが濃茶、
私は里芋の葉蓋で洗い茶巾で薄茶と、
みんなで和やかに楽しく香と茶を堪能した一日となりました。
Iさん、ありがとうございました。私もお茶の稽古、がんばります・・・。

         (1)へ               & 

  写真は、「もうカラスウリの実が・・」と「点前座」です。   

はつ風の香席 (1)

2010年08月03日 | 茶会・香席
8月1日(日)BSジャパンで放映された
「奥深き香道を継ぐ~500年の時を越えて~」を観て
門外漢ながら香道や香木への興味をつのらせています・・・。

盛夏の候、茶友のIさんから再び香席へお招きいただきました。
「何卒、また香席へ伺いたく・・」という要望に応えてくださったのです。

お客さまは五名、始めての方が多かったので、
前回同様、資料とメモ用の筆記用具が配られました。
香席へ入る前に別室で六国五味や組香についてレクチャーを受けました。

香席では、組香といって先ず3種の香(試み香、伽羅、羅国などの香木で、
和歌より香銘が付けられている)を聞きます。
次いで本香2種(試み香から1種と、今まで聞いていない香1種)を聞き、
この2種の組合わせを当てるのだそうです。
なんせ、2回目ですので間違っていたら、ごめんなさい。

その日の組香は「はつかぜ香」でした。
はつ風とは、八月終りか九月初め頃にふと「秋が来たなぁ~」と
一瞬感じる、爽やかな風を呼ぶそうです。

香銘「心、扇、露」は、秋のはつ風に因む和歌三種から付けられています。
優雅な香銘「心」と「扇」は、大好きな西行法師と式子内親王の和歌からと知り、
香席への期待で胸が膨らみました・・・。

                

頂いた資料には次のように書かれていました。

    「はつかぜ香」

 一.心   二、扇   三、露
 上の三種を各二炷(ちゅう)づつ用意し、内一炷づつ試む。
 残り三炷を内交ぜて一炷を選び、ウ一炷(今まで聞いていない香)を
 加えて本香二炷となす。 ウは初風の心なり。

     心         新古今   西行法師
  おしなべて ものを思はぬ人にさへ 
          心をつくる 秋のはつ風

     扇         新古今   式子内親王
  うたた寝の 朝けの袖にかはるなり 
          ならす扇の 秋のはつ風

     露         新古今   源 具親
  しき妙の 枕の上に過ぎぬなり 
          露をたづぬる 秋のはつ風

                        
いよいよ香席へ入りました。
香炭団が入っている香炉が二つ並べられ、灰手前が始まりました。
灰をかき上げ、灰押さえで灰を押さえながら円錐をつくり、
羽箒で際を整え、火箸で五面に十本づつ小筋を入れていきます。
正面に聞き筋を1本入れ、火窓があけられました。

Iさんの凛とした姿勢、確かな手の動き、茶道とは違う所作を
一同、真剣に息を詰めるように見つめました。

          (2)へつづく              

   写真は、「カラスウリの花」と「風にゆれるガマの穂」です。