暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

茶事のサウンド・スケープ (2)  蹲の水

2009年10月06日 | 茶事のサウンド・スケープ
お客さまが腰掛待合で亭主の迎え付けを待っています。

亭主は水桶を運び出し、蹲(つくばい)の横にある湯桶石に置きます。
柄杓で蹲の水を植木や石にかけ周囲を清めてから、
水を一杓汲み、手を洗い、口をすすぎ、身を清めます。

それから、水桶の水を「ザッー」と音高く蹲に注ぎます。
滝のような清浄感、爽快感を思わせます。
この音を腰掛待合のお客さまは聴きつけて、
迎え付けが近いことを知るのです。

茶事でよくお借りする翆晶庵は、ビルの1階を
素敵な茶席に改造しています。
外露地と内露地にそれぞれ蹲があり、
雨のとき、小間使用のときは
内露地にある筧から水が流れ落ちる蹲を使います。

筧のある蹲では水桶を使わないので
水桶の音の爽快感はありません。
その代り腰掛待合で水音を長く楽しむことができます。

二つ蹲があると失敗談もあります。
急に雨が降ってきて、内露地の蹲を使うことに変えました。
頭の方が切り替わらずに水桶を持ったまま出てしまいました。
蹲まで来て、水桶がいらないことに気づき、戻りました。
持って出てしまった場合は、たとえ筧があったとしても
水を入れた方が良かったかしら?・・・あとで思いました。

水の持つ力でしょうか?

ビルの中の腰掛待合でも筧の水音に耳を澄ませると、
世俗の塵が次第に払い落とされ、
深山幽谷の静けさを、あるいは曼荼羅浄土の別世界を
思い起こさせてくれます。

あるお客さまは筧の水音を聞きながら、
「日頃、仕事の忙しさに追われていましたが、
 こんなに心静かな過ごし方があるのですね。
 水音が、忘れていた大事なことを気づかせてくれました」

亭主も客も蹲の水で身を清め、世俗の塵芥を洗い流し、
心新たに席へ入ります。

   蹲の音を待ちつつ腰掛けの
      何処からともなく鈴虫の声

           (夕去りの茶事のお客さま 2008年9月)

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