(静岡の旅で出合った椿(名前が?)・・・吉田町能満寺にて)
弥生3月になって茶室の設えを春らしいものに変えたいと苦心しています。
たくさん御軸や茶道具があれば良いのでしょうが、無ければ無いで良しとし、あるもので頭をひねっています。頭をひねるのが結構楽しいです。
御軸や茶道具を吟味していると、1本の御軸が目に留まりました。
「去々来々来々去々」(足立泰道師の御筆)です。
・・・そして、このお軸に最初に出合った日のことを鮮明に思い出しました。
(「去々来々来々去々」の御軸、足立泰道師の御筆です)
修復工事に入るので今日庵での朔日稽古は当分できなくなるとのことで、いつもの数倍の方が朔日稽古に参加されました。
それでOさんと茶道会館・心花の間へ移り、ご指導して頂いたのが伊藤宗観先生でした。
昨年秋に伊藤宗観先生がお亡くなりになったことを淡交タイムズで知りました。心からご冥福をお祈りいたします。 合掌・・・
伊藤先生は私たちのことを覚えていらっしゃらないと思いますが、先生との朔日稽古の思い出は楽しく懐かしく・・・今でも鮮明に思い出されます。
床の御軸が「去々来々来々去々」、初めて目にする禅語でした。
「御軸はなんとお読みするのでしょうか?」とお尋ねすると、
「紫野・大亀老師の御筆で「きょきょらいらい らいらいきょきょ」と読みます。「去っては来る 来てはまた去っていく」という意味ですが、いろいろなことを問いかけ、また語りかけてくる、誠に良い御軸だと思います・・・」と。
伊藤先生のお話を伺い、朔日稽古で良い御軸に出合え、伊藤先生のステキなお話をたくさん伺えてて幸せだな~と思いました。私も「去々来々来々去々」という禅語の持つ意味を時々考えたくなり、その後、雲澤禅寺・足立泰道師にお願いして書いていただきました。
とても大好きな御軸で、茶事(「秋待つ撫子の茶事」「クリスマスの茶事」
)や稽古の折に掛けていますが、そのたびに問いかけて来るもの、語りかけてくるものが微妙に異なり、禅語の解釈が変化するのも趣深いところでしょうか
(静岡の旅で出合った椿(名前が?)・・吉田町能満寺にて)
もう一つ、伊藤宗観先生との思い出があります。
真之炭手前から朔日稽古が始まったのですが、恐れ多くも私が正客、Oさんが次客に入らせて頂きました。羽箒の掃き方、湿し灰の撒き方などを丁寧にご指導いただきました。
香合が出され、青磁の桔梗香合でしたが、後で香合と香のお尋ねをしなくてはなりません・・・急に胸がドキドキしてきました。思い切って
「心に染み入るような青磁のお色が素晴らしい香合でございますね。こちらの香合は?」とお尋ねしました。
「心に染み入るような・・・」の一言が先生の琴線に触れたのでしょうか? その一言で先生の心が私の方を向いてくださったように思い、先ほどの「去々来々来々去々」のお話に繋がって行ったのです。
そして、この後すぐ感激が残るうちに青磁の桔梗香合(押小路窯)を購入し、真之炭手前の稽古で使っています。
素敵な今日庵・朔日稽古の思い出をくださった、伊藤宗観先生のご冥福を心からお祈りいたします。