古染付の祥瑞詩入筒茶碗
骨董好きのN氏が毎回お稽古に、貴重な茶道具や骨董品を一つだけ持参して見せてくださるので
これを機に少しお勉強しなくては・・・と思い始めました。
前から好きだった古染付(こそめつけ)。
調べてみると、古染付は中国・明時代の末期、天啓期(1621~1627)を中心に崇禎期(1628~1644)頃までの間に景徳鎮民窯で焼かれた染付磁器の一群をいいます。
日本には多くの古染付が伝世しますが、中国や他国にはほとんどみつかっておらず、日本の茶人からの注文によって作られたと考えられています。
「虫喰い」と呼ばれる「ほつれ」(焼成により釉薬の一部がわずかに欠けた部分)が見られ、一見すると粗雑な作りに見えますが、形も絵も自由奔放、おおらかでさりげない趣があり、当時の日本(江戸初期)の茶人の好みに合い、あこがれの器だったのでしょう。
古染付の生まれた天啓期(15代憙宗天啓帝 在位1621~1627)は、300年続いた明朝の末期で国力が最も衰微した時期です(16代毅宗崇禎帝の時に明は滅亡 在位1627~1644)。
乱世という社会情勢の中で、景徳鎮では官窯に代り、民窯の活動が盛んになった時期でもあります。
古染付の絵には、長寿、子孫繁栄、立身出世、富貴栄華など庶民の願いを描いたものや、
文人たちの理想社会を描いた山水文様が多く、乱世を生きる作り手たちの願いが込められているとか。
作られた時代の歴史を紐解くと、古染付への理解が進み、作り手の息遣いが聞こえてくるようです。
そんな折、「古染付の祥瑞詩入筒茶碗」を見せて頂きました。
小ぶりの筒茶碗で、すこしいびつ、白地に呉須で漢詩が書かれています。
どうみても下手な字ですが、おおらかな味わいを醸し出し、詩の世界へいざなってくれます。
「えっ! これが祥瑞なの??」
祥瑞といえば、白地に呉須で描かれた特有の模様(丸紋、幾何学模様など)がありますが、どう見てもそのイメージとは全く異なる茶碗です。
すると、N氏は持参の「小さな蕾」(趣味の古美術専門誌N0.177)を開いて
「詳しくはここに書かれていますので読んでください。写真も載っていますが、これがその本歌です」
施釉した生がけの生地を削った高台廻り
伊藤祐淳氏が「小さな蕾」の「古玩隋語」に書かれた冒頭の部分を書きだしておきます。
祥瑞詩入筒茶碗 伊藤祐淳
拙著「古玩隋語」の中の「祥瑞小皿」の項で、祥瑞の主たる特色を列挙した中に
「施釉した生がけの生地を削った高台廻りが鈍いこと」を挙げ、
「この高台削りが特に重要で、染付模様が如何に祥瑞的でなくても、時代さえそれに合致すればこれを祥瑞と呼びます」という一項があります。
少々説明不足のような気がして心のつかえが残っていましたが、幸いに実物が出て来ましたので、補足する意味でおめにかけることにします。
ご覧のとおり、形も染付も全く祥瑞の意匠とは無関係で、七言の詩を書きなぐっただけのものです・・・(後略)。 (つづく)
古染付・・祥瑞詩入筒茶碗 その2へつづく