(床の「結果生自然」の御軸)
令和7年3月23日に「nature’s rhythm(自然の営み)」の茶事へ招かれました。
ご亭主RさまはS先生の東京教室で共に研鑽に励んでいる同門社中、アメリカ人で二十数年前に来日し、茶道に出逢ってから、ひたすら茶の道を真摯に歩んでいます。その姿勢に暁庵はいつも尊敬の念を抱き、たくさんの刺激を頂戴しています。
そんなRさまが初めて自宅・苔庵で行われる茶事へお招きくださり、相客4名といそいそと参上しました。
(「苔庵」の扁額)
ご案内の手紙に茶事のテーマが「nature’s rhythm」(自然の営み)とありました。
Rさまの故郷、アメリカ・ネブラスカ州のプラット川はカナダヅル(Sandhill Crane)の最大の飛来地になっていて、毎年3月から4月にかけて65万羽ものカナダヅルがやって来るそうです。
プラット川周辺で十分な休息と栄養補給をし、再びロシア・シベリアを目指して飛び立っていきます。
(早朝、プラット川の浅瀬から飛び立つカナダヅル。
「Rowe Sanctuary」で撮影 Photo © Mirei Sato提供)
待合へ入ると、テーブルに英語で書かれたカード(アメリカの詩人、ウィリアム・カレン・ブライアントの壮大な詩の一節)と、カナダヅルが飾られています。
Go forth
under the open sky
and list
to Nature’s
teachings
(日本語訳は、ーーーそういう時は 広い空の下に出かけて 耳を自然の教えに傾けよ)
(詩の一節とカナダヅル)
煙草盆の火入や白い汲出しがアメリカの陶芸家の作と伺って「好いな!」と思い、アメリカでも陶芸が盛んなことが嬉しかったです。その日は3月なのに暑く、冷たいwaterが爽やかに喉を潤します。
玄関の蹲にレンギョウの花が美しく飾られ、蹲の水が使えないので、塗香(ずこう)が置かれていました。お坊様のように塗香で手を清め、心身を清めるのは初めての体験で新鮮でした。
(玄関の蹲と塗香)
八畳の茶室へ席入りすると、床には紫野清源師の「結果生自然」の御軸と、千葉の作家さんの香炉が飾られています。
炉には釣釜が掛けられ、後で糸目筒釜(敬典造)と伺いました。
(席入りにて・・・お床を拝見しています)
御軸を拝見しながら、「Rさまは私を茶事へお招きくださるまでの数年間にいろいろなことに努力され、準備されたのだ・・・」と改めて思いました。
自宅の購入から始まり、洋間を茶室へリフォームし、水屋や茶道具を整えたり、懐石料理をがんばったり・・・そして今まさに「結果生自然」となり、茶事をいそいそとされているご様子に感銘を受けました・・・。
(席入りにて・・・炉中と釜を拝見しています)
とても嬉しくご挨拶を交わしました。
お弟子のF氏(アメリカ人です)が釣釜で炭所望(本炭所望)をしました。
(釣釜は糸目筒釜(敬典造)です)
花月札が運ばれ、花の札を引いた人が炭手前をします・・・暁庵が花を引きました。
袴姿のF氏の落ち着いた美しい炭手前の所作に感心し、Rさまのご指導とF氏の精進が伺われます。
初履きで炉を囲みました。湿し灰が表千家流のような(?)荒々しい風情で炉中が丹精に整えられています。湿し灰を撒くと中掃きをし羽箒を炭斗にのせ、灰器を引いてから茶道口で「どうぞお炭をお願いします」
暁庵が炭を置かせていただき、良き思い出になりました。ありがとうございます。
「どうぞお直しの上、お香を・・・」と暁庵。
香合は蓋にツルが舞っている青磁雲鶴、香は「松濤」(坐忘斎お好み、松栄堂)でした。
こうして炭所望が終わり、ご亭主手作りの点心が運び出され、お話を伺いながら美味しく頂戴しました。
(点心の最初の膳ですが、少し飲んで食べてからパチリ・・)
点心がカナダヅルの飛来地を表現していて、素晴らしい御趣向でした。
最初の膳が渡りの中継地ネブラスカのプラット川。ネブラスカ産のコーンクリームスープ、ジャガイモにステーキとサワークリームとタイム添え、白ワイン(シャルドネ?)が出されました。スプーンとフォークがR様らしいです。
次の皿は渡りの最終到着地のロシア。ホットケーキの上のサーモンとキャビアがロシア産です。
最後の皿は渡りの出発点のメキシコ。パンの上に黒豆と肉とトマトが乗っていました。
ネブラスカ州の農産物コーンを収穫するときに畑に取残されたものがカナダヅルの餌になって、65万羽が飛来して栄養補給するという興味深いお話を聞きながら心づくしの点心を味わいました。
これぞ偉大なる「nature’s rhythm(自然の営み)」、私たち客もカナダヅルの大群に加わったみたい・・・です。
ご馳走さまでした。 つづく)
「nature’s rhythm(自然の営み)」の茶事へ・・(2)へつづく