暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

壷中の茶事へ招かれて-1

2017年03月22日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)


    巨勢山(こせやま)のつらつら椿  つらつらに
        みつつ偲(しの)はな  巨勢(こせ)の春野を

                      坂門人足(さかとのひとたり) (万葉集



3月16日、S先生の東京教室で共に稽古に励んでいるYさまがお茶事へお招きくださいました。
Yさまとは帰りがいつもご一緒で、その日の稽古のことや茶事の話を電車の中でしていたのです。
Yさまが懐石を自分で作り、炉開きや初釜にお弟子さんを茶事でおもてなしすると伺って、
「是非、暁庵を茶事へお招きください・・・」とお願いしていました。
それを忘れずに今回お招きくださって、Oさま、Iさまと連れ立って、いそいそと出掛けました。

Yさま宅へ到着。案内のお手紙に随い、水の打たれた玄関を開け、寄付きの間へ入りました。
そこで身支度をしたのですが、幅一間ほどの時代のある箪笥が何とも気になります。
落ち着いた丹色の漆塗、しっかり打たれた金具も豪華で凝っています。
後でお尋ねするのが楽しみ・・・と思いましたが(正客を仰せつかっていた・・・)、これはほんの序の口でした。

「エレベーターで3階へ上がってください。3階が待合と茶室になっています」
いつも思うのですが、日常の生活空間をどのように茶席へ創意工夫していらっしゃるのかしら?
・・・家庭茶事が大好きな暁庵にはひとつひとつが興味深く、まさに茶事の醍醐味の一つと思います。
(小型エレベーターとバリアーフリーは今後検討したいテーマになりました)

3階の待合は水屋を兼ねていて屏風で上手に水屋を隠していました。
その屏風もたいそう古いもののようで、消息やら色紙やらが張り込まれています。
煙草盆、火入(古染付)、面白い形のキセルも時代があり、皆で感心して見惚れていると、汲み出しが運ばれました。
その日は暖かく、喉が渇いていたので(びっくりして、はしゃぎ過ぎ?)、白湯を美味しく頂戴しました。
栗型の盆には螺鈿で人物が描かれ、枇杷色の汲み出しは味わい深く象形文字のような字が胴に刻まれ、煎茶のものかしら?
我が家の簡素な盆や汲み出しを思い出しながら、なんて凝っているお道具ばかりなんだろう!・・・と。


 (我が家の蕗の薹です・・・こんなに大きくなりました)

待合の前にベランダがあり、待合の窓から直接蹲が使えるように工夫されています。
蹲踞の水で心身を清め、いよいよ席入です。
席入すると、そこは六畳の茶室で一間の床の間に半間の脇床がありました。
床には「壺中日月長」の軸、霊空和尚の伸びやかな御筆です。
「今日はごゆるりと壷中でお過ごしいただければ・・・と存じます」とご亭主Yさま。

点前座には誰袖棚、そして素敵な四方水指と長棗が荘られていました。
「ご亭主様がそこにいらっしゃるような佇まいの長棗ですね・・・」とIさま。
そして炉には手取り釜ならぬ「薬缶」が掛けらえていました。
「今日は暁庵様のために釣釜で・・・と思いましたが、急に思い立って家にあった「薬缶」を釣ってみました」
その「薬缶」がもう!垂涎ものでした。  
御主人の実家が佐渡の旧家だそうで、「薬缶」は佐渡の金工師が手掛けたという蝋型鋳物です。
胴には見事な浮き華文があり、蓋のつまみは獅子、そしてなんとも味わい深い風格が・・・きっと代々大事に使われてきたのでしょうね。(つづく


         壷中の茶事へ招かれて-2へつづく