暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

茶事のサウンド・スケープ (3)  にじり口の戸

2009年10月08日 | 茶事のサウンド・スケープ
お客さまが茶席に入る時、
にじり口より頭を低くしてにじって入ります。
最後のお客さま(お詰)が入り、にじり口の戸を
軽く「音」を立てて閉めます。

茶道口近くで様子をうかがっている亭主は、
この「音」でお客さまが全員席入りしたことを知るのです。

亭主は茶道口の襖の前に座り、
衣擦れや摺り足の音を聞きながら、
座がおさまるのを待ち、ご挨拶の間合いを計ります。
私は、「さぁ、行きます」と、
気合を入れてから一呼吸おき、襖を開けます。

中立で、再びお詰はにじり口を軽く音をたてて閉めます。
その音を合図に亭主は後座の席中の支度にかかります。
後座の席入りが終わった合図もにじり口を閉める音です。

さあ、いよいよ濃茶です。
襖の前に茶碗を置いて心静かに座し、
間合いを計って襖を開けます。

この濃茶前の一時がとても好きで、大事にしています。
支度に追われてゆとりがない時ほど、気持ちを集中して
静かに座す一瞬が必要な気がしています。

茶事が進行し最後の挨拶が終わり、
「どうぞ、お見送りなきように・・・」
「最後までお心遣いいただき、ありがとうございます・・・」
主客はお別れの時が迫ったと、
万感の思いを胸に最後の言葉を交わします。

亭主は礼をして襖を閉め、茶道口で音を待っています。
にじり口の戸を閉めた音で、煙草盆を引き、
すぐに見送りに出て、主客とも無言で礼を交わします。

茶友のYさんは
「茶事の中でこの場面が一番好き!」
 と言います。
「お見送りなきように・・・」と言われながらも、
それでも亭主はお客さまの後ろ姿が見えなくなるまで、
見送らずにはいられない・・・。

茶事の心が凝縮される一瞬でしょうか。

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