今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

257 深川(東京都)・・・下町や前衛の風粋に吹き

2010-01-18 11:54:59 | 東京(区部)

東京にはいったい「美術館」がいくつあるのだろう。ネットで検索すれば一覧表はすぐに見つかるけれど、余りに多くて数えるのが億劫になる。「ちょっと歩けば美術館に当たる」という暮らしができることは現代の恩恵の一つであって、このことに限って言えば東京は恵まれた生活環境の街ということになる。ただそれぞれの美術館と自分がうまく感応し合えるかどうかは別の話。今日は江東区にある東京都現代美術館(MOT)にチャレンジしてみる。

開館14年と歴史の浅い美術館だが、ポップアートに6億円とは払い過ぎだと叩かれたり、入場者の恒常的低迷で芳しくない評判ばかりが聞こえていた美術館である。行ってみると施設は立派で、天井の高い空間は伸びやかで心地いい。常設展は「戦後日本美術を見直す」と題して、もはや古風といっていいリアリズムが懐かしかった。ドイツの女性アーティストの企画展は、触れると血が滴りそうな危うさが我が理解力を超えていたが、それでも面白かった。

若者たち、それも女性が多く鑑賞していた。みなさん寡黙に、考え込むように見入っている。土曜日の割には入場者数は少ないと見受けたが、カフェは満席だった。しかし、何か物足りない。木場公園の一角のマンション群に囲まれた、ファミリーな世界に染まっているせいだろうか、爆発していないのだ。前衛のはずなのに妙に大人しい。入場者数などどうでもいいから、もっと爆発しなければ! と、独り自爆したのは私。

前衛アートは客足が伸びないのが近年の傾向だと聞く。それはこのジャンルのアーティストの多くが、メッセージ性を追求するあまり独善に陥り、かえって訴える力を失っているからだ、と思う。だから新聞社などが主催する美術展は、いつまでたっても西欧のブランド品に頼ってばかりだ。当面は「現代」美術館に、人出を期待しても無理だと考えておいた方がいい。

しかしアートな感性というものは、必ずや時代の「何か」をヒリヒリ表現しているものだ。そこに行けば、とんでもなく尖った「何か」に出逢える場所として、現代美術の専門館はあった方がいい。そうしたヒリヒリ感を存分に発揮できる場を持たない都市など、少なくとも大都市だと胸を張る資格はない。といってMOTを振り返ると、ヒリヒリしてもいないし尖ってもいない。集客など二の次だと、学芸員の尻を叩く度量が行政にあったら素晴らしいのだが。

前衛アートの洪水で脳みそが液状化した私たちは、本来のクールさを取り戻そうと清澄庭園に向かった。紀伊国屋文左衛門の別邸から大名の下屋敷となり、後に岩崎家が整備したという庭園は、ちょうど日が没してライトアップの灯が点いたところだった。いわゆるマジックアワー、昼と夜の狭間のひとときはまことに静かでよろしい。ハゼの木だろうか、暗くなるにつれ池の浮き島に真っ赤に色づいた樹が浮かび上がった。

あまりに毒々しい色合いが不思議で目を凝らすと、幹まで赤く染まっているではないか。着色した光線で照らしているのだ。都の名勝に指定されているということだが、庭園管理者はいったい何を考えているのだろう。せっかく紅葉している葉に、なぜ人工の色を加える必要があるのか。すっかり興醒めであったが、そもそもライトアップ自体が人工的お遊びではある。まさかこれも現代アートなのではないだろうなと、私の頭はますます液状化した。


美術館に行く前に、地下鉄を一駅手前の門前仲町で降りて富岡八幡さまにご挨拶しておいた。歩道は屋台であふれ、カルメ焼き、縁起物、カレンダー売りと、まるで縁日のような賑わいである。隣接する深川不動尊も人で溢れていて、本堂は法話を聴こうとする善男善女でいっぱいだ。日本人が宗教観に乏しいとは本当の話だろうか。無宗教を自認する私にしたところで、いつの間にか賽銭を投げて手を合わせているから不思議なものだ。

師走を目前にした28日は、知らなかったけれど深川の八幡さまは縁日だったのだ。参道には老々男女がひしめいて、そこに加わったわれわれは「やや若手」か。ポップアートと向き合う前に縁日で心を和ませる、下町には洒落た取り合わせがあるものだ。地下鉄は隅田川の下を潜り抜けているので、ここはすでに濹東。ちょいと手前の都心のことが、ヘンに澄ました気恥ずかしい街に思えて来るほど、通りも人も気取りがない。(2009.11.28)
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