今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

062 富士見(長野県)・・・信州に御射山とかいう里があり

2007-07-19 15:43:18 | 新潟・長野

中央本線を西へ、小海線の起点である小淵沢駅をあとにすると、山梨県を通過して長野県に入ることになる。そこが富士見町で、諏訪郡の東南端にあたる。これまでは「特急あずさ号」で何の感慨もなく通り過ぎていたであろうこの街に、所用ができて立ち寄ることになった。もちろん初めての土地であるし、こんな名の町があることも知らなかった。しかしどのような土地も、歩いて初めて知ることのできる良さがある。

この地域は、北を八ヶ岳から連なる富士見高原が塞ぎ、南は入笠山(1955m)の裾野が下ってきて狭い谷を形成している。甲州から諏訪へはここを抜けて行くしかなかったのだろう、甲州街道と中央本線が、絡み合わんばかりの様相でこの谷を延びて行く。さらには中央自動車道が高原の縁に建設されたのも、地形からして当然のことだった。

私が訪ねたのは、町の西外れの御射山神戸地区である。教えてもらうまで「みさやまごうど」と読むことはできなかった。不思議な地名である。北方の高原に「御射山」があって、諏訪大社の摂社・御射山社が祀られているという。以下は私の推測だが、「神戸」というのは、その御射山社の氏子たちが暮らす、神社の荘園のような集落だったのではないか。人々はふもとの街道沿いに宿を営み、厚い信仰心で御射山社を守ってきたのであろう。

こうした土地に、「ふるさとの良さを見直そう」と活発に活動しているグループがいると聞いてやって来たのだ。案内してもらうと、鬱蒼とした森に囲まれた里の神社を中心に170戸ほどの暮らしがあり、裏山を抜ける道筋にはケヤキの巨木がびっくりするほど大きく枝を広げ、その下に慶長15年(1610年)と彫られた旧甲州街道の一里塚が残っている。江戸から48里(約192キロ)の地点なのだそうだ。

信仰や歴史の痕跡が色濃く残り、自然は有り余るほど豊かだ。晴れていれば雄大な八ヶ岳を望むことができ、諏訪南インターやJR「すずらんの里駅」があって交通も至便。「こんなにいい土地はないのに、それが子どもたちに伝わっていない」と考えるグループが、あの手この手の「地元学」を展開し始めた。

「歴史散策マップ」を作成して駅や集落の辻に掲示したり、歴史ポイントを解説した「ふるさとカード」を編纂して全戸に配布した。さらには荒れた里山を整備しようと、休耕田を借り受けて「ひつじ牧場」(写真・下)や「ブルーベリー農園」に転換しつつある。すると里に下りて来て作物を荒らしていたシカやイノシシが姿を消し、逆に集落内は会話が復活して賑やかになった。

どうやらこうした活動が近隣の集落も刺激して、町全域の「地元学」が活発になりそうな勢いらしい。富士見町は町立図書館の貸し出し数が日本一であるなど、元来、街づくりに熱心な地域だということで、不振のスキー場経営にめどをつけることができれば、静まり返る商店街も賑やかさを取り戻すことだろう。

入笠山にはスズランの群生地があるのだそうだが、駅名を「すずらんの里」などと無国籍にしたことは惜しかった。「御射山」という由緒ある地名を冠せられたら、この桃源郷は即、全国区の存在になったであろう。(2007.7.15)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 061 松本(長野県)・・・濡... | トップ | 063 五條(奈良県)・・・五... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

新潟・長野」カテゴリの最新記事