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瀬戸内海には周囲100メートル以上の島が727あるのだそうだが、面積が8平方キロあって、約3000人が暮らす香川県直島町の直島本島は、大きな島の方なのだろう。宮浦港から町営バスに揺られて行くと、道幅の狭さが離島であることを思い出させるものの、落ち着いた家並みは暮らしの豊かさを感じさせる。島の北部に大規模な銅精錬所があり、南部は岡山資本による「直島文化村構想」のホテルや美術館が建つ。恵まれた島なのだろう。
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地中海は磯臭さが薄いと小説か何かで読んだ記憶があるけれど、「内海」とはそうしたものなのか、瀬戸内海の直島もあまり「海」が臭わない。この日は好天のせいか、「のたり」とした春の海辺は対岸の島の近さも手伝って、琵琶湖のほとりに立っているような気分になる。岡山県側の宇野港からはフェリーで20分だが、高松港からは50分と遠い。しかしここは香川県なのだ。島の帰属は古くから争いの種で、漁業者の勢力で線引きされたらしい。
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ベネッセハウスの高台から望むと、水平線に重なるように瀬戸大橋が霞んでいる。そしてその手前に、整った円錐形をした島が浮かんでいる。海に浮かぶ讃岐富士のような姿だ。この辺りを旅する都度、印象に残った風景なので、今度は帰って地図を精査してみた。どうやら大槌島という無人島らしい。本州と四国が最も接近しているあたりで、その真ん中にぽつんと浮かんでいる。北半分は岡山県玉野市、南半分は香川県高松市になるのだという。
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香川県の島々を舞台にして、瀬戸内国際芸術祭が開催されている。トリエンナーレ形式の5回目になる2022が間もなく始まるようだ。前回の2019では14に分散された会場のうち、直島は最多の30万人超の来場者があったという。島の人口の100倍の人々が押しかけるのだから、会期の100日余、狭い島内は活気と雑踏で燃え上がるのだろう。「そうなる前の静寂」を求めてやってきた私たちは、常設の作品と快適な直島散歩を楽しんだ。
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最も惹きつけられた作品は柳幸典の「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム 1990」だった。統一された透明のパネルの中に、着色した砂で描いた世界中の国旗を収め、国旗同士はチューブで繋がれている。パネルの中で実際に蟻を飼育し、蟻が掘ったトンネルが、国旗に不作為の傷を描い
て行く。何か意図があるのだろうが、観る側も勝手に想念が膨らんで行く。ロシアのウクライナ侵攻が現実の狂気として今あるだけに、想念は暗く膨らむ。
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案内書がこぞって褒めている「地中美術館」に行ってみる。島の奥まった小丘を彫り込んで、クロード・モネら3人の作品を恒久設置しているのだという。「地中」にしたのは光を天井からのみ取り入れる意図があるのかもしれないが、その効果は不明だ。展示室へは狭い通路を歩かされ、靴を脱がされ、穿かされ、また脱がされた。つまり鑑賞する側の心地よさなど論外なのだ。これまでたくさんの美術館を訪ねてきたが、ここは最悪の施設だった。
パリのオランジュリー美術館に比べると、モネの絵は暗く翳って台無しである。有名建築家に設計させて、有名な作家の作品を展示すれば、法外な入館料をいただいても立派に「文化活動」を名乗れると思い上がる運営財団の浅はかさが透けて見える。スタッフの若者たちはテキパキと働いているだけに残念なことだ。帰路、宮浦港の定食屋で食べたヒラメの唐揚げと刺身があれほど美味でなかったら、私は直島に来たことを後悔しただろう。(2022.4.2)
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地中海は磯臭さが薄いと小説か何かで読んだ記憶があるけれど、「内海」とはそうしたものなのか、瀬戸内海の直島もあまり「海」が臭わない。この日は好天のせいか、「のたり」とした春の海辺は対岸の島の近さも手伝って、琵琶湖のほとりに立っているような気分になる。岡山県側の宇野港からはフェリーで20分だが、高松港からは50分と遠い。しかしここは香川県なのだ。島の帰属は古くから争いの種で、漁業者の勢力で線引きされたらしい。
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ベネッセハウスの高台から望むと、水平線に重なるように瀬戸大橋が霞んでいる。そしてその手前に、整った円錐形をした島が浮かんでいる。海に浮かぶ讃岐富士のような姿だ。この辺りを旅する都度、印象に残った風景なので、今度は帰って地図を精査してみた。どうやら大槌島という無人島らしい。本州と四国が最も接近しているあたりで、その真ん中にぽつんと浮かんでいる。北半分は岡山県玉野市、南半分は香川県高松市になるのだという。
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香川県の島々を舞台にして、瀬戸内国際芸術祭が開催されている。トリエンナーレ形式の5回目になる2022が間もなく始まるようだ。前回の2019では14に分散された会場のうち、直島は最多の30万人超の来場者があったという。島の人口の100倍の人々が押しかけるのだから、会期の100日余、狭い島内は活気と雑踏で燃え上がるのだろう。「そうなる前の静寂」を求めてやってきた私たちは、常設の作品と快適な直島散歩を楽しんだ。
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最も惹きつけられた作品は柳幸典の「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム 1990」だった。統一された透明のパネルの中に、着色した砂で描いた世界中の国旗を収め、国旗同士はチューブで繋がれている。パネルの中で実際に蟻を飼育し、蟻が掘ったトンネルが、国旗に不作為の傷を描い
て行く。何か意図があるのだろうが、観る側も勝手に想念が膨らんで行く。ロシアのウクライナ侵攻が現実の狂気として今あるだけに、想念は暗く膨らむ。
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案内書がこぞって褒めている「地中美術館」に行ってみる。島の奥まった小丘を彫り込んで、クロード・モネら3人の作品を恒久設置しているのだという。「地中」にしたのは光を天井からのみ取り入れる意図があるのかもしれないが、その効果は不明だ。展示室へは狭い通路を歩かされ、靴を脱がされ、穿かされ、また脱がされた。つまり鑑賞する側の心地よさなど論外なのだ。これまでたくさんの美術館を訪ねてきたが、ここは最悪の施設だった。
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パリのオランジュリー美術館に比べると、モネの絵は暗く翳って台無しである。有名建築家に設計させて、有名な作家の作品を展示すれば、法外な入館料をいただいても立派に「文化活動」を名乗れると思い上がる運営財団の浅はかさが透けて見える。スタッフの若者たちはテキパキと働いているだけに残念なことだ。帰路、宮浦港の定食屋で食べたヒラメの唐揚げと刺身があれほど美味でなかったら、私は直島に来たことを後悔しただろう。(2022.4.2)
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