今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

230 西脇(兵庫県)・・・へその地を踏みつつ思ふ宇宙の眼

2009-07-24 00:51:20 | 大阪・兵庫

地理的に「日本の真ん中」に位置することに何の意味があるのか、よくわからない。しかし「わが町こそ日本の《へそ》である」と主張する街はいくつもある。それぞれに何らかの根拠はあるらしいが、西脇市の「へそ宣言」は分かりいい。国土の北辺と南端の中央が北緯35度で、東と西のそれが東経135度。そのラインが交差する地点こそが「日本のへそ」だというのだ。そしてまさに、両ラインは西脇市の「そこ」でクロスするのである。

「そこ」は西脇市の中心部から東へ、加古川左岸にうずくまる標高80メートル足らずの小さな丘「岡ノ山」の西側急斜面にある。「そこ」は4本の柱が天を指し、その中央が「へそ」なのだという。ここのへそはコンクリート製のようだ。息を切らせてようやく「そこ」まで登ると、加古川の流れに抱かれた西脇市街が一望され、「私たちは日々、日本の中心に立つ喜びを感じています」という西脇市民の思いも「むべなるかな」と思えて来る。

丘の頂きに、兵庫県指定文化財の「岡ノ山古墳」があった。全長51メートル余の前方後円墳だ。4世紀前半の築造だというから、古墳時代の極めて早い段階にあたる。そんな時代にこの地の覇者となった人物が、ここを「世界の中心」と見抜き、死してなお覇権を揮おうと古墳を築いたのかもしれない。大変な眼力だ。

実は400メートルほど北に離れた加古川河川敷に、もう一つの「へそ」がある。大正12年に陸軍が地上の計測をもとに割り出した「そこ」だ。岡ノ山の「そこ」は人工衛星を使ったGPS測量によるもので、どちらも正しいのだというからややこしい。「なぜですか」と麓の経緯度地球科学館でしつこく質問したら、専門家が出て来て「地球に歪みがあるからです」と解説してくれた。

加古川の流れに沿ってJR加古川線が走っている。東播磨と丹波を結ぶ、日に数本の電車しか見られない超ローカル線だ。しかし無人ながら「日本へそ公園」という駅もあって、駅前に市の美術館がある。西脇市出身の横尾忠則氏の、事実上の個人美術館のような展示で、「へそ」に分け入る前に氏の前衛芸術に触れておくことは、難解ではあるがなかなか示唆に富んでいる(と思う)。

そこから公園が始まって、目を回した宇宙人のような顔の「テラ・ドーム」が迎えてくれる。国内有数という大型望遠鏡やプラネタリウムを独り占めして見せてもらったが、美しい天体を眺めているうちにすっかり眠り込んでしまった。昼時とあって園内のレストハウスは満員だった。メニューはいささか高価なのだが、西脇マダムたちには大した問題ではないようだ。

市はこの丘一帯を「日本へそ公園」として整備、「へその街」づくりに思い切り精力を傾けているようだ。それならいっそ、公園全体のプロデュースを横尾氏に任せたら、どんなに強烈な磁場が生まれたか、惜しい気がする。

《へそ》との出合いに満足し、そのまま再びローカル線の客となったものだから、毛織りと釣り針と高校駅伝の街・西脇にどんな市街地があるのか、知らないままになってしまった。ただ、そこで暮らす女性たちは、上品でホスピタリティーに溢れていることを確信した。美術館を一人守っていた女性が、多分その日、ただ一人の入館者であろう私に、よく冷えた麦茶を出してくれたことでそれが分かったのである。(2009.6.26)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 229 篠山(兵庫県)・・・残... | トップ | 231 加古川(兵庫県)・・・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

大阪・兵庫」カテゴリの最新記事