今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

1102 大井(東京都)歩道に並ぶ共用トイレの柱列お見事

2023-06-27 09:51:26 | 東京(区部)
大森貝塚を再訪しようと、品川駅で京浜東北線に乗り換えた。次の大井町駅に到着したところで「大森駅まで行って少し戻る」という当初計画を変更し、ここから歩いてみるのも一興だと思い付いた。慌てて飛び降りて「60年になろうかという私の東京暮らしで、初めて下車する駅だ」と気が付く。東京には、まだ知らない街が多いのだと、楽しみが残っているような気分になる。西口を出ると、歩道に奇妙なコンクリート柱が並んでいる。これは何だ?



大きさ・形状・高さが異なるグレーの柱が6基、バラバラな向きや間隔で並んでいる。大きい柱で一辺が3メートルほどあるだろうか。駅前を飾るオブジェなのだろうかと考えたが、観察するとそれぞれに小さく男女や子供、車椅子のマークが付いていて、トイレだとようやく気がつく。外のランプが付いていない、つまり未使用らしい1基に入ってみる。外部から見えにくい線路側のドアを閉めると、完全な個室である。内部は手洗いも備えられ広い。



国鉄民営化で最も成果があったのは、駅のトイレが綺麗になったことだ、などと言われることもあるが、海外を旅行すると、日本ほどトイレ事情の良い国はない、と思って帰国することになる。初めてニューヨークを訪れた時、オフィスビルでトイレを求めると、鍵を渡され驚いた。日本なら街を歩いていて催したとしても、駆け込める場所はなんとか見つかる。しかも大井町駅前のこの公共トイレは洗浄器付きで、便座は暖めてさえあるではないか。



今年のカンヌ映画祭で、日本の俳優が最優秀男優賞を受賞して話題になった。公共トイレの清掃員の物語で、ドイツ人監督の作品だ。渋谷の公園に設置されたお洒落なトイレに触発されて生まれた映画らしい。一方で男女別の区分を撤去した公共トイレが生まれていることに、拒否反応が示されることがあるようだ。ジェンダーレスを唱えながら、トイレは昔ながらの男女別を主張する。どう考えたらいいのか。私は大井町の個室に座って考える。



村上春樹の『海辺のカフカ』だったと思う。古い日本のお屋敷を利用して図書館を開設している施設に、女性活動家のご婦人が二人、視察にやってきて「男女共用のトイレしかないとは酷い。すぐに改装すべきです」と詰め寄る。館員の若い男性は「みなさんはまずボーイング社を訴えるべきですね」と涼しい顔で応じる。確かに航空機は全て男女共用である。新幹線も家庭だってそうだ。一体いつから「トイレは男女別々」が文化になったのだろうか。



戦災復興を目指す東京は1947年、それまで35あった区制を整理、23区に統合する。品川区は旧品川区と荏原区が合併して発足した。名称を「大井区」とする案もあったらしい。大井町駅には大井町線やりんかい線も乗り入れており、大井は品川区の賑わいの中心だったのかもしれない。しかしお隣の大崎駅周辺がビジネス街として大変貌したがものだから、今ではやや地味な印象だ。それにしてもなぜ「大井駅」ではなく「町」が付くのだろう。



線路に沿って南へ、大森を目指す。間もなく大井倉田町会の「品川美化推進モデル地区です」の看板が現れる。JRの線路を隔てるフェンスは無骨だけれど、道路はチリ一つ落ちていない。早朝に誰かが清掃し、通勤通学のラッシュ時でもポイ捨てをする人はいなかったのだろう。ひたすら住宅が続く過密な都会にあって、美化推進が実行されている街はそれだけで気持ちが良い。そのうえ洒落た公共トイレもある大井は、いい街のようだ。(2023.6.23)











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