![]() ★(僕のホームページのコンテンツの1つ「掲示板」に、ある方から「御坂峠・天下茶屋の2階」と思われる画像の提供があった。その投稿への返信コメント)――この画像は、僕は訪れたことがないのですが、たぶん、御坂峠・天下茶屋の2階の――井伏鱒二が初夏の頃から、こもって仕事をしていた部屋の隣室、すなわち、太宰が、井伏のゆるしを得て、当分落ちつくことになった……という部屋ですね。 もしそうだとすれば、僕は初めて見ます(*^_^*)。 窓の造り、座卓や火鉢の質感、部屋の広さ等は、だいたい、僕のイメージ通りですね。 床の間の造りは、意外と洒落ていますね(*^_^*)。 『富岳百景』―― 僕は中学から高校前半までは、完全、理系の生徒でした。 国語は大の苦手。 文法もアカン。 漢字もアカン。 読解にいたっては「なんでこんなアホなこと質問せんとアカンネン」という感じで、国語のテストは、いつも30点~40点。 この国語嫌いの、あけてもくれても電気&電子回路図と首っ引きで、汗を拭き拭き、半田ゴテを握っている理系少年の僕を、「国語教師」にガラリと変えたんですからね、『富岳百景』は(^_^)v。 コメントに「色々エピソードが、良いですよね~」とありますが、ホンマですね。 ☆東京の、アパートの窓から見る富士は、くるしい。 ひとりで、がぶがぶ酒のんだ。 あかつき、小用に立つて、アパートの便所の金網張られた四角い窓から、富士が見えた。 窓の金網撫でながら、じめじめ泣いて、あんな思ひは、二度と繰りかへしたくない。 ☆御坂峠を引きあげる井伏氏に連れられて甲府で或る娘さんと見合ひ。 井伏氏が「おや、富士。」と呟いて長押なげしを見あげた。 私も、からだを捻ねぢ曲げて見上げた。 富士山頂大噴火口の鳥瞰てうかん写真。 ゆつくりからだを捻ぢ戻すとき、娘さんを、ちらと見た。 多少の困難があつても、このひとと結婚したいものだと思つた。 ☆おそろしく、明るい月夜。 富士。 維新の志士。 鬼火。 狐火。 ほたる。 すすき。 葛くずの葉。 夜道を、まつすぐに歩いた。 下駄の音、からんころん。 ずゐぶん歩いた。 財布を落した。 ぶらぶら引きかへしたら、財布は路のまんなかに光つてゐた。 私は、それを拾つて、宿へ帰つて、寝た。 富士に、化かされたのである。 ☆「お客さん! 起きて見よ!」かん高い声で或る朝、茶店の外で、娘さんが絶叫したので、私は、しぶしぶ起きて、廊下へ出て見た。 見ると、雪。 山頂が、まつしろに、光りかがやいてゐた。 「いいね。」 「すばらしいでせう?」 「やはり、富士は、雪が降らなければ、だめなものだ。」 ☆富士には月見草がよく似合ふ。 河口局から郵便物を受け取り、またバスにゆられて峠の茶屋に引返す途中、私のすぐとなりに、濃い茶色の被布ひふを着た青白い端正の顔の、六十歳くらゐ、私の母とよく似た老婆がしやんと坐つてゐて、富士には一瞥いちべつも与へず、かへつて富士と反対側の、山路に沿つた断崖をじつと見つめて、ぼんやりひとこと、「おや、月見草。」 ☆「お客さん。甲府へ行つたら、わるくなつたわね。」 「さうかね。わるくなつたかね。」 「ああ、わるくなつた。この二、三日、ちつとも勉強すすまないぢやないの。あたしは毎朝、お客さんの書き散らした原稿用紙、番号順にそろへるのが、とつても、たのしい。たくさんお書きになつて居れば、うれしい。ゆうべもあたし、二階へそつと様子を見に来たの、知つてる? お客さん、ふとん頭からかぶつて、寝てたぢやないか。」 私は、ありがたい事だと思つた。 これは人間の生き抜く努力に対しての、純粋な声援である。 私は、娘さんを、美しいと思つた。 ☆茶店の椅子に腰かけて、熱い番茶を啜すすつてゐたら、冬の外套着た、若い知的の娘さんがふたり、「相すみません。シャッタア切つて下さいな。」 私は、わななきわななき、レンズをのぞいた。 まんなかに大きい富士、その下に小さい、罌粟けしの花ふたつ。 私は、ふたりの姿をレンズから追放して、ただ富士山だけを、レンズ一ぱいにキャッチして、富士山、さやうなら、お世話になりました。 パチリ。 これらの「エピソード」を、太宰は、この部屋で組み立て、そして、僕の人生を変えたのですね。 ★関連記事 ・怒ってはならない。大事な仕事がある。今の私には、これ位の待遇がふさわしいのかもしれない……という心境 ★公式ホームページへ ★WEB無人駅線ページへ |
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