★夕刻、残りの僕の人生の、既にかなり狭まってしまった【活路】を見いだそうとして見いだせず、苦しんでいるとき、DAKA古書店跡のいちばん奥の書架中段にあった『素顔』(三浦哲郎)が目に止まった。
書物を手に取り、適当に開いたところから読みはじめた。
「郷里の匂い」の章、残り3ページのところだった。
その3ページを読み終え、次の章「酒場まで」。
冒頭――
《ふと、すすり泣きの声を聞いたような気がして、馬淵は、マッチを擦ろうとしていた手を止めた。
こんな真夜中に、すすり泣きなんかするのは、いったい誰だ。》
妻の菊枝か?
三女の七重か?
次女の志穂か?
長女の珠子か?
《ふと、すすり泣きの声を聞いたような気がして、馬淵は、マッチを擦ろうとしていた手を止めた。
こんな真夜中に、すすり泣きなんかするのは、いったい誰だ。》
妻の菊枝か?
三女の七重か?
次女の志穂か?
長女の珠子か?
グイグイと引き込まれ、その章を一気に読み切った。
うまい!と思った。
その「酒場まで」の最後の場面――
《「はい。お嬢さんには、なにがいいでしょうね」
馬淵は、珠子(=すすり泣きの主)と顔を見合わせた。
すると珠子は、ちょっと顎を引いて、上目になって笑ってみせた。
そんなところは菊枝(=馬淵の妻)にそっくりだったが、
「よく似てらっしゃいますね、お父さまに」
と、カウンターのなかからお紺さん(=酒場のママ)がいった。
馬淵は思いがけなくて、
「僕にですか」
「ええ、そっくりですよ、まだ詰襟の学生服を着てらっしゃったころに」
「そうかなぁ」》(後略)
しびれたしまったよ。(庄野潤三より上かなぁ~。)
★画像=『素顔』(三浦哲郎)の表紙。
購入した書店(三日町の伊吉)に充満していた空気、当時の僕の境遇、書物を手に取ったときの僕の心境は、はっきりと覚えているが、書物の中味を読んだ記憶はない。
購入した書店(三日町の伊吉)に充満していた空気、当時の僕の境遇、書物を手に取ったときの僕の心境は、はっきりと覚えているが、書物の中味を読んだ記憶はない。
★僕の公式ホームページにもぜひおいでください。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます