万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米政権内部の情報の食い違いは何を意味するのか?

2020年01月13日 13時28分41秒 | 国際政治

 報道によりますと、アメリカのトランプ政権内部では、重大な情報の食い違いが生じているそうです。ソレイマニ司令官殺害の根拠となったイランの革命防衛隊の先鋭部隊(コッズ部隊)による米大使館攻撃計画における大使館の数について、トランプ大統領は‘四つの大使館’と説明しているものの、米CBSテレビに出演したエスパー国防長官は、こうした情報は把握していないと語ったからです。情報の内容が一発触発の事態に至った米・イラン間の危機の発端となっただけに、今後、様々な憶測を呼びそうです。

 

 第1に推測されるのは、トランプ大統領による単純な記憶違いです。報道のニュアンスからしますと、エスパー国防長官が否定したのは攻撃計画そのものではなく‘四つの大使館’のようですので、数や対象の間違いであれば、大統領職、かつ、事件の重要性からしますと必ずしも許されるわけではありませんが、誰にでもあり得るミスです。

 

もっとも、メディアが‘四つの大使館’に拘り(おそらく、CBS側が誘導的に質問したのでは…)、かつ、全世界に向けて食い違いとして発信しているところからしますと、この‘間違い’には、重要な意味が隠されているのかもしれません。第2の憶測は、‘四つの大使館’は暗喩であって、トランプ大統領は、同表現を用いることによってイランが真に攻撃しようとした対象を仄めかしているというものです。ただし、暗喩は‘分かる人には分かる’のであって、他の一般の人々には、単なる間違いにしか聞こえません。

 

 第3の推測は、イランの攻撃対象が、米政権内部の情報伝達プロセスの何れかの段階で、故意、あるいは、誤って大統領に伝達された可能性です。米大使館攻撃計画はイラン政権中枢、あるいは、革命防衛隊を含む軍部のみが有する最高機密情報なだけに、情報源は相手国に潜入して諜報活動を担うCIAなのでしょうが、必ずしも、収集された全ての情報がそのまま大統領に伝わるとは限りません。もっともこの説ですと、米政権内部においてオリジナルな情報が何者かによって改竄、あるいは、加工されたこととなり(内部の工作員か外部からのサイバー攻撃?)、アメリカの政権内部の情報伝達プロセスに重大な脆弱性があることが露呈します。

 

なお、仮に、同情報を軍のトップである国防長官が全く関知していないとすれば、アメリカでは、憲法において軍の最高司令官の地位が付与されている大統領に米軍の作戦行動に関する決定権が集中していることとなりましょう。攻撃直後、米国防総省は、「大統領の指示のもと、米軍はカセム・ソレイマニを殺害することで、在外アメリカ人を守るための断固たる防衛措置をとった」と発表していますので、国防長官のポストはお飾りに過ぎず、政策決定プロセスからは外されているのかもしれません。今般の決定に際しても、国防長官をメンバーとする国家安全保障会議が開催された形跡はありません。そして、同情報も、正式な情報伝達システムを経ずして大統領の側近によって内密にもたらされたのかもしれないのです。

 

 第4に考えられるのは、エスパー国防長官が虚偽の発言をしている可能性です。CBS側としては、政権内部の食い違いを明るみにすることで、トランプ大統領のソレイマニ司令官殺害作戦の正当性に疑いを持たせる方向に世論を誘導したいのでしょう。米メディアは伝統的には民主党の牙城ですので、司令官殺害作戦実行の正当性を揺るがすことは、大統領選を控えた状況にあってトランプ政権、否、共和党に痛手を与えるチャンスともなります。もっとも、米メディアではなく、イランの後ろ盾となっている中国やロシア、あるいは、国際組織の指示によってエスパー国防長官が嘘を吐いた可能性も否定はできません。戦争の背後には、敵対する双方の国の内部にあって相手国の工作員、あるいは、国際組織のメンバーが蠢くものですので、エスパー国防長官は、アメリカという国家ではなく、他の何者かに忠誠を誓っているのかもしれないのです。この説ですと、同長官は、トランプ政権内にあって‘裏切者’ともなるのですが、この点については、今後の同長官の去就が注目されることとなりましょう。もちろん、トランプ大統領自身が嘘を吐いている可能性もあるのですが…。

 

 そして、さらに穿った見方をすれば、全てが国際組織による‘茶番’というシナリオです。同組織が戦争を望んでいるのか、あるいは、回避しようとしてるいのかは判然としませんが、あえて混乱状態を作出することで、自らの計画する方向に向けて国際社会を動かそうとしているのかもしれません。あるいは、第三次世界大戦に導く計画、もしくは、同組織の秘密計画が露呈しそうになったので、責任の所在を曖昧にするために誤魔化そうとしているのでしょうか。戦争の裏側には陰謀が渦巻いているのが常であり、国家間の対立だけを見ていては国際レベルの真の目的を見逃すことがあるのです。

 

 エスパー国防長官の発言はアメリカの政権内部において情報が共有されておらず、その原因として、上述したように様々な勢力が今般の情勢を利用しようとした可能性が示唆されるのですが(真相は別のところにあるかもしれませんが…)、アメリカが陥っている状況は、イランにも言えるように思えます。全体主義国でありながらイランもまた一枚岩ではなく、その内部において様々な勢力が政府から離れた独自の立場から活動している気配が感じられるからです。アメリカとイランとの対立が決して単純なものではないはずですので、国際社会は、双方の国内において行われている外部からの工作活動にこそ注目すべきではないかと思うのです。

コメント (2)
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