万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イランの核開発再開が意味するものとは?

2020年01月05日 13時14分41秒 | 国際政治

イランの核開発再開が意味するものとは?

 

 国際情勢をみますと、2020年は、アメリカとイランとの間の対立激化を以って幕を開けた感があります。イラクのバグダッド国際空港での米軍の空爆によるイランの革命防衛隊「コッズ部隊」の伝説的英雄、ソレイマニ司令官の殺害に対して、イランは報復を予告しており、中東には暗雲が立ち込めています。

 

 ソレイマニ司令官殺害については、アメリカのメディアではニューヨー・タイムズが批判的な一方でウォール・ストリート・ジャーナルは一定の理解を示しており、同作戦に対する見解は賛否両論に分かれています。両者の見解の違いは、後者が第二次世界大戦における山本五十六連合艦隊司令長官の撃墜事件を前例として挙げたことから、イランを既に交戦状態にある敵国とみなすのか、否かによって生じているようです。敵国説の根拠は、ソレイマニ司令官がイラクやサウジアラビアを含む中東諸国でイランの先兵として活動する反米武装勢力(シーア派民兵組織)の支援の陣頭指揮に当ってきた点にあり、同司令官の殺害を予防的防御措置として正当化する姿勢はトランプ政権と一致しています。

 

 もっとも、アメリカは、同作戦については国際法上の疑義が生じる余地がないわけではありません。特に作戦の実行場所となるイラク政府の合意を得ていなかった点やソレイマニ司令官が計画していたとされるアメリカ人殺害作戦の証明などが問題視され、国際法の専門家やイランと親しい中国などは、これらの諸点についてアメリカの武力行使に疑問を呈しています。(ただし、イランによるシーア派民兵組織への軍事援助も国際法の違法行為…)イラク戦争時のような国際法上の合法性に関する論争の激化も予測されていたのですが、イランが報復手段として核兵器の開発再開に踏み出す方針を示したことは、この問題に新たな一面を加えることになりそうです。その一面とは、NPT体制の行方です。

 

 イランの報復措置については、具体的には中東諸国に居住するアメリカ人の殺害、米軍高官の暗殺、駐留米軍への攻撃、近隣諸国の石油施設の破壊、並びに、アメリカの盟友であるイスラエルに対する攻撃等が予測されていますが、イランは、核合意から逸脱して核開発をさらに促進する構えも見せています。仮にイランが核開発に着手するとなりますと、北朝鮮問題が引き金となると目されてきたNPT体制の放棄と核拡散との二者択一は、イラン問題において現実のものとなるかもしれません。このことは、イラン問題が武力衝突へと発展する可能性がさらに高まることを意味します。イラク戦争に際しては、フセイン政権による大量破壊兵器の保持を完全には証明できまず、戦争の合法性が問われましたが、今般のケースでは、イランは自ら核開発計画の存在を表明していますので、アメリカは、イランに対する軍事制裁を正当化する法的な根拠を確保できているとも言えるのです。

 

 イランがアメリカによる軍事制裁を予測しながら核開発に踏み切るとすれば、それは、対米開戦を覚悟してのこととなるのですが、果たして勝算はあるのでしょうか。この点で気にかかるのは、中国や北朝鮮の動きです。イランと同様に核問題を抱える北朝鮮は、新年早々にアメリカとの対決姿勢を明らかにしています。中国もまたイランとの連携を確認しており、これらの諸国の行動はどこかでリンケージしているようにも見えるのです。

 

 仮に全体主義国による対米対決姿勢が新たなる陣営の形成であるならば、2020年は、アメリカとイランとの間の二国間戦争にとどまらず、世界大戦の火ぶたが切って落とされる年となるのかもしれません。平和や自制を訴えながらも、双方のリアクションが戦争への道を敷いているかのように見えるところからしますと、それは、何らかの国際組織が仕組んだ織り込み済みのシナリオなのでしょうでしょうか。それとも、危機の演出に過ぎないのでしょうか。

 

アメリカの同盟国であり、かつ、中東に石油を依存している日本国も無縁でいられるはずもなく、日本国政府は、あらゆる事態に対処し得るよう、対策を準備しておく必要があるように思うのです。

コメント (2)
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