万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イラン危機は中国に波及する?

2020年01月06日 13時30分56秒 | 国際政治

 米軍の空爆によるソレイマニ司令官の殺害は、中国とロシアがイラン支援を表明したために第三次世界大戦への導火線になりかねない状況となりました。否、イランが、核開発・保有計画を密かに温めつつ、既に自らの傘下にあるシーア派武装勢力組織をあらゆる面で支援し、イラクをはじめとした中東諸国において反米活動を活発化させていたとしますと、今日の危機はイランが自ら引き起こしたといっても過言ではないかもしれません。

 

 2020年は、新年早々、全人類が戦争の危機に直面することとなったのですが、今般の事態において日本国政府、並びに、国際社会が最も警戒すべきは、中国の動向ではないかと思うのです。香港においては民主的選挙で敗北を喫し、アメリカとの間の貿易戦争にあっても目に見える成果を挙げられていない習近平国家主席は、党内からも批判の声が漏れ、その権力基盤は必ずしも盤石ではないそうです。自らの権力を維持するために‘外部の敵’を利用したり、‘国家的危機’を演出するのは独裁者の常であり、習主席も、そのチャンスを見つけ出すべく国際情勢を虎視眈々と眺めているはずです。かつて、ソ連邦の独裁者として君臨したヨシフ・スターリンも、第二次世界大戦がなければその粗暴さと無計画性から失脚していたとされます。古代ローマでも、平時にあって2人体制であったコンスルを有事には一人、すなわち、ディクタトールとなして独裁制に変えたように、トップの命令の下で組織を動かざるを得ない戦争状態とは、独裁体制と最も親和性が高いのです。

 

 昨年の年頭にあって、習主席は台湾の併合には武力行使も辞さずの姿勢を表明していましたが、今年は、民主主義国家である台湾において総統選挙が行われる年でもあります。おそらく同選挙では、習主席は共産主義の民主主義に対する二度目の敗北という屈辱を味わうこととなりましょう。そして、この展開が高い確率を以って予測されるからこそ、中国は、‘戦争’を歓迎する、あるいは、中東の危機を自国に飛び火させたい強い動機を有すると考えられるのです。

 

 中国に戦争願望があるとすれば、当然に、イランを支援する形での対米戦争(北朝鮮バージョンもあり得る…)、あるいは、アメリカを中心とした自由主義陣営との戦争ということになりましょう。もっとも、イランと中国との間には、現在、水面下では協力関係にあるものの正式な軍事同盟がありませんので、中国が参戦するとすれば何らかの口実を設けようとするはずです。

 

そこで考えられるのは、(1)イランと公式に軍事同盟を締結する、(2)中東諸国に居住する中国人を保護することを名目に派兵する、(3)北朝鮮とイランとの間の秘密裡での軍事協力を利用してアメリカの対北軍事制裁を誘発し、朝鮮戦争を再開させる、(4)アメリカを軍事的に挑発し、対中開戦に導く、(5)ハル・ノートの作成にソ連邦の協力者であったハリー・ホワイトが関わったように、米国政権内の中国人工作員等を使ってアメリカ側から中国を挑発させる、(6)盧溝橋事件等に習い、米軍が人民解放軍、あるいは、中国の在外公館等の施設を攻撃したかのように工作する、(7)中国によるイランに対する軍事支援を敢えて発覚・露見させ、アメリカの報復攻撃を引き出す…といった開戦のための口実と準備です。これらの他にも様々な作戦があるのでしょうが、中国には、国際法を誠実に順守する意思はありませんので、あらゆる謀の可能性を考慮しておいたほうが安全であるかもしれません。特に中国は、国際法に対する順法精神にかけており、国際社会の一般的な常識の裏をかくような策略を仕掛ける可能性もあり得るのです。

 

トルコの行動範囲が、消えたはずのトルコ帝国の版図まで拡大し、イランもかつてのペルシャ帝国の大国意識を継承しているとしますと、時代は再度‘帝国主義’へと逆戻りしているかのようです。そして、アジアでも中国が中華帝国の栄光を取り戻すべくその鋭い牙を日夜研いでいます。時代が逆流しているように見えつつも、人類は、第二次世界大戦後の70余年の間に得た知識や経験を無駄にしてはならないはずです。戦争の原因は国益の衝突によってのみ説明されるわけではなく、双方ともの内部に‘裏切者’が忍び込まされており、人々の命を犠牲にしながら戦争によって利益を得る国際組織も存在し、メディアも双方の世論誘導の手段として利用されたてきた世界大戦の苦い歴史は、今般の事態にあっても、徒に感情を高ぶらせたり、迂闊に挑発に乗ることなく、できる限り多くの正確な情報を収集し、冷静、かつ、客観的に状況の分析を行うべきことを教えています。些細な出来事のように見えてもその裏に大規模な計画が潜んでいる可能性もあるのですから、表面に現れる現象のみならず、知性を働かせてその裏の意図や計画(謀略)をも読むことこそ、危機からの脱出方法を見つけ出すために必要とされる作業ではないかと思うのです。


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