万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカはノアの方舟か?

2008年05月24日 17時21分36秒 | 国際経済
米国が外国石油「依存症」から離脱へ――フィナンシャル・タイムズ(フィナンシャル・タイムズ) - goo ニュース

 経済予測ほど当たらない予測はないので、アメリカの脱外国石油のエネルギー政策の影響が、世界経済全体に与える影響を正確に判断することは、簡単なことではありません。それでも、ここでは、石油価格に絞って、その影響について考えてみようと思います。

 第一のシナリオは、長期的には、石油価格が下がるという見方です。これは、二つの要因、つまり、バイオ燃料や省エネ技術の導入による石油消費量の減少と、アラスカ等の石油採掘事業による増産により、需給バランスが供給の増加に傾くからです。なお、もしアメリカが、自国産の石油を自国企業に優先的に供給したり、あるいは、自国産の石油に対して輸出規制を設ければ、少なくともアメリカ国内においては、石油価格下落は相当に高い確率で起こりそうです。

 第二に、BRICsなどの新興工業国の石油需要の増加により、石油価格は下落しないという見方もできます。中国もインドも膨大な人口を抱えていますので、先進国並みの生活水準に追いつくまで、石油消費量は増加し続ける可能性があるからです。これは、アメリカの石油政策に関係なく、国際石油価格を押し上げます。そうして、この長期上昇トレンドに基づくシナリオには、投資家や金融機関を石油市場への投機に駆り立てるという副作用があるのです。

 第三のシナリオは、石油価格は、一定の上昇の後に逓減し、下落に転じるとする見方です。これは、石油価格の上昇による企業収益の悪化が、消費者の購買力低下につながり、企業活動を縮小させること、並びに、企業自身が技術開発により、脱石油体質を強化することによって生じます。

 石油価格の上昇は、全ての諸国にとって望ましいものではありません。そこで、最悪のシナリオを避けるためには、せめて、商品市場における投機マネーの流入を規制すること、並びに、エネルギー効率を上げる努力を続け、脱石油体質を強化することだけは、怠ってはならない政策と言えそうです。しもっとも、アメリカだけは、たとえ石油価格高騰の洪水が押し寄せてきても、最も被害を受けずに済むかもしれません。

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