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●科学技術ニュース●東北大学など、安定して存在するトポロジカルなキラル量子細線を発見し量子ビットや高効率太陽電池への応用に道

2024-06-11 09:36:17 |    物理
 東北大学、大阪大学、京都産業大学、高エネルギー加速器研究機構、量子科学技術研究開発機構の共同研究グループは、ガスクラスターイオンビーム(GCIB)と高輝度放射光を用いた実験と理論計算により、テルルの量子細線が1次元トポロジカル絶縁体であることを明らかにした。

 この成果は、バルク結晶(3次元)や薄膜(2次元)形状をした既存のトポロジカル絶縁体とは異なる性質が期待される1次元トポロジカル絶縁体の基礎研究の進展に加えて、量子ビット(量子コンピュータ)や高効率太陽電池などの実現に道を拓くもの。

 今回、東北大学 大学院理学研究科の中山 耕輔 助教、徳山 敦也 大学院生(研究当時)、材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の佐藤 宇史 教授、多元物質科学研究所の組頭 広志 教授、大阪大学 大学院基礎工学研究科附属スピントロニクス学術連携研究教育センター(CSRN)の山内 邦彦 特任研究員(常勤)、京都産業大学理学部の瀬川 耕司 教授、量子科学技術研究開発機構(QST)の堀場 弘司 グループリーダー、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の北村 未歩 助教(現QST)らの共同研究グループは、らせん構造をした量子細線が束になった構造を持つテルルという物質に着目した。

 テルルは、らせんが右巻きの場合と左巻きの場合で異なる光学特性を示すキラルな物質として古くから研究されてきたが、最近の理論研究により、テルルの量子細線1本1本が1次元トポロジカル絶縁体になることが予測されている。

 この予測を実証するためには、量子細線の清浄な断面を準備し、そこに現れる電荷を観測する必要がある。しかし、原子同士が強く結合した細線が束になった物質を切断しようとしても、細線がつぶれるなどして、断面をきれいに揃えることは容易ではなかった。

 同研究では、新たに開発したアルゴンガスのクラスターをイオン化して試料に照射する装置(GCIB装置)を用い、量子細線の端をきれいに削ることで、断面を揃えた上で清浄性も実現することに成功した。
 
 その後、高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーにおいて真空紫外放射光をミクロン径に集光して高い空間分解能を実現したマイクロ角度分解光電子分光(ARPES)装置を用いて、量子細線の断面の電子状態を精密に測定した結果、バンドギャップ内に現れるスピン偏極した電子状態の観測に成功した。

 第一原理計算(理論的な計算値)との比較から、このバンドギャップ内に現れた電子状態は、量子細線の端に現れる電荷に由来することを明らかにした。

 また、紫外光で試料表面を走査してこの電子状態の空間分布を調べた結果、隣接する量子細線間を電子が飛び移ることで、理論的にも予想されていなかった伝導経路(エッジ状態)が形成されることを明らかにした。
 
 今回の成果は、安定して存在する固体において1次元トポロジカル絶縁体状態の存在を初めて示したもの。<量子科学技術研究開発機構(QST)>
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