理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センターRI物理研究室の谷内稜リサーチアソシエイト(研究当時、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻大学院生)、ドルネンバル・ピーター専任研究員、櫻井博儀室長(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授)らの国際共同研究グループは、中性子過剰なニッケル同位体である78Ni原子核(陽子数28、中性子数50)のガンマ線分光に成功し、長年未解決であった二重魔法性の直接的証拠を発見した。
陽子や中性子は、量子力学的にエネルギーが飛び飛びの軌道に入る。エネルギーが近い軌道群を「殻」と呼び、一つの殻に入る核子の数は殻ごとに異なる。魔法数は、殻間のエネルギーが大きなところに現れる。1949年に、米国のメイヤーとドイツのイェンゼンは、軌道や殻間のエネルギーギャップに関する原子核の「殻構造モデル」を提唱することで、魔法数を説明することに成功した。この発見により、2人は1963年にノーベル物理学賞を受賞した。
魔法数は全ての原子核において、変わらず普遍的な定数であると約半世紀にわたって考えられてきた。ところが、同じ原子番号の安定核に比べて中性子が多い原子核(中性子過剰核)の性質を効率よく調べることができるようになると、魔法数8、20、28が消失したり、新しい魔法数16、34が出現したりすることが分かってきた。中性子過剰な不安定原子核における魔法数が変化する現象(殻進化)の解明は、ここ数十年にわたり原子核物理学において重要な課題となっている。
今回の研究成果は、原子核の内部構造を理解する手掛かりになるのみならず、宇宙における重元素合成(r過程)の謎を解くための鍵になると期待できる。
国際共同研究グループは、世界最高性能で不安定原子核ビームを生成するRIビームファクトリー(RIBF)において、極めて中性子過剰な78Ni原子核の励起状態を生成し、その励起エネルギーを測定することに初めて成功した。
実験は、フランスCEAサクレー研究所が開発を主導した高機能液体水素標的装置MINOS(ミノス)を、理研が保有する高効率ガンマ線検出装置DALI2(ダリツー)と組み合わせて使用することで達成され、78Niの第一励起準位(2+準位)から発せられる高いエネルギーの脱励起ガンマ線の存在を確認した。
これは、中性子過剰な78Ni原子核においても二重魔法性が保持される直接的で強い証拠である。