はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

戦争と平和

2022-04-27 16:40:59 | はがき随筆
 砲弾がさく裂する中や戦火の中を逃げ惑ったわけではない。5歳のぼくが実感した戦争は、立川と調布の中間に住み、二つの飛行場が焼き尽くされる光景と、空襲警報で2歳の妹を背負い、母に手を引かれて赤松林へ逃げ、キラキラ輝くB29編隊を見上げたこと。そして兵隊姿の父の面会に行った記憶である。
 平和は唐突にやってきた。敗戦である。6歳のぼくには、父がいて逃げ隠れせずに済む毎日、安心安全が平和だと思えた。その平和は空腹と停電の日々でもあった。
 ウクライナの平和を願いながら……。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(82) 2022.4.22 毎日新聞鹿児島版掲載

子離れ

2022-04-27 16:35:16 | はがき随筆
 孫娘が熊本市内の大学に入学することになった。高校まで八代市に住んでいたので、通学を心配していたが、大学の近くにアパートを借りることにしたらしい。
 午後8時ごろ、娘から電話がかかってきた。孫娘の引っ越しを済ませ、帰宅途中だと言う。電話では、「なんかさみしか」とため息をついている。
 自分も大学生になったとき、自宅通学を勧める親の意見も聞かず、アパート生活を始めたくせに。「ざまー見ろ」と言いたかったが、それは言えない。
 「どうだ、親の気持ちがわかっただろう」と言ってやった。
 熊本市北区 岡田政雄(74) 2022.4.20 毎日新聞鹿児島版掲載


「私のトマト」

2022-04-27 16:29:18 | はがき随筆
 1月7日のはがき随筆「私のトマト」のその後。小さな実は2月に3~4㌢に育った。だが緑色で固く、とても食べられそうにない。それでもかわいがっていたら、3月に少しずつ色が変わってきた。そしてようやく真っ赤に熟したので家族3人で食べた。ほんの一口もなかったが、すごく甘かった。
 半年以上かけてたった一個のミニトマトを収穫したことがこんなにうれしいとは。これに味をしめて庭で畑を造れば楽しかろうが、やめておこう。今回は一生に一度のビギナーズラックだったはずだから「私のトマト」の味をずっと覚えていたい。
 鹿児島市 種子田真理(70) 2022.4.19 毎日新聞鹿児島版掲載


娘に初孫

2022-04-27 16:15:08 | はがき随筆
 11月、孫息子に女の子が誕生し、娘はおばあちゃんになった。
 コロナ禍であるが、リモートのおかげで、宮崎と東京の思いが通じあうのがすばらしい。
 生後まもなくの日に、娘が横で「そうネーあなたが千遥ちゃん」と、やわらかな声かけをすると「ふうーん」と声が返る。
 聞いた私は、わかるのと思わず娘に聞き返した。後日、孫息子から3カ月までの家族アルバムが送ってきた。
 聴力検査に行ってきました。一発合格したと記入してあり、胸がつまった。
 子どもは神様からの贈りもの。私は米寿で曽祖母となる。
 宮崎市 田原雅子(88) 2022.4.18 毎日新聞鹿児島版掲載


ウクライナに思い

2022-04-27 16:06:23 | はがき随筆
 川べりを散歩、スッキリ晴れた青空と堤防に咲く菜の花の配色がウクライナ国旗にそっくりと気づく。ほんの数分前に見たテレビ映像は、ロシア軍の砲撃で無残に壊されたビル外壁、殺された子供を返してと泣く母親など悲惨なものばかり。第二次大戦の敗色濃い頃の空襲で逃げ回った幼時の記憶がフラッシュバック、一瞬震えた。
 冷徹無比な指導者が始めた暴挙はとどまることを知らぬどころか、核兵器使用さえちらつかせる。こんな戦争、やめさせる妙手はないものか。黄色い菜の花を見ながら、改めて平和の尊さに思いをはせる。
 熊本市東区 中村弘之(85) 2022.4.17 毎日新聞鹿児島版掲載

することがあると

2022-04-27 15:59:52 | はがき随筆
 日の長い一日があり、短い一日もある老齢の日々。このところB4用紙の隅に、S子さんのように飾り紙を貼り付ける手紙をまねている。まねることの嫌いな私にも美しさを創造できる喜びがあるので納得。持てる千代紙や包装紙を切って作る。以前はこんな装飾などせず、ただ用紙に書くのが普通だった。美しい方がよいので文通の相手に学ぶ。彼女のは封筒からお手製。便箋も。
 今は自在に歩けないので、まねてみる。指先を使い慣れるまでもう少しだ。春の光に誘われて気分もうきうき。することがあるってうれしい。
 鹿児島市 東郷久子(87) 2022.4.16 毎日新聞鹿児島版掲載

水道が来た

2022-04-27 15:52:24 | はがき随筆
 「蛇口をひねれば水がでる。ありがたいね。水やりが楽で便利になるね。手を洗えるのがいいね」と口々に仲間と水道が来たのを喜びあった。
 約10年前までは、五ヶ瀬川のコノハナロードで2人で桜守をしていた先輩は、日照りの時は車に水タンクをいくつも積み郊外の陸上競技場まで一日に何度も往復し、まだ幼木だった桜に水やりをしたそうだ。
 その後、道路沿いに水道管が来て、そこからホースを引き、大きい水タンクひとつにためてバケツやひしゃくで花壇やプランターにも使っていた。
 なんという隔世の感だろう。
 宮崎県延岡市 露木恵美子(70) 2022.4.16 毎日新聞鹿児島版掲載

竹棒

2022-04-27 15:44:55 | はがき随筆
 腰痛で朝の散歩がきつい。寒い日は特に苦痛を感じるが、やめればますます悪化する。そんな悩みの中、元プロ野球の大投手、金田正一さんがトレーニングや柔軟体操に棒を使っていたことを思い出した。早速、使いやすい真竹を適当な長さに切り、腰や背中に当てて歩いてみると、背筋がピンと伸びて、歩くのが楽になった。使用して4カ月が過ぎたが、不思議なもので、竹棒が手足の延長みたいに感じ、柔軟体操や竹刀に似せた素振りを交えながらの朝の散歩。あぜ道に咲く、菜の花の強い香りも、心地よく感じる。
 熊本県嘉島町 宮本登(70) 2022.4.16 毎日新聞鹿児島版掲載身

春の小川

2022-04-27 15:37:16 | はがき随筆
 童謡「春の小川」のような風景が広がっている。スミレやレンゲが満面の笑みで春陽に輝き、ホトケノザやハハコグサがゆれる。ビニールハウスでは、春トマトの収穫や、イチゴの取入れ作業中だ。昼前の散歩は愛犬、桃とのいつものコースだった。14歳。短い脚で遠くまで歩いたなと胸が切なくなる。逝ってから8カ月、まだ信じたくない。レンゲソウの田んぼで遊んだっけ。お花畑の中に飛び込んで寝転びたい。川では鯉の群れが泳いている。川の真ん中が濁っているのは春だから? 厳しい冬の川では、魚は身を潜めてどこに隠れているのだろうか。
 熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2022.4.16 毎日新聞鹿児島版掲載

妹の笑顔

2022-04-27 15:29:42 | はがき随筆
 大阪で暮らす妹は、ツワブキが大好物で春を待っている。
 もうそろそろかなーと友達といつもの山に行った。青々としげった青葉の根元にうすい綿毛をまとったツワブキが背伸びをしている。あるある。すぐに袋いっぱいになった。妹の笑顔が浮かんだ
 5人兄妹も今や二人きりになった。戦地から帰らぬ父を待ち続け、父さん星をさがした事や、学校から帰るとハマグリやシジミを取りに行ったものだ。今や思い出を語れるのは妹だけに。来年も妹にツワブキが届けられますように「ありがとう」と言って手を合わせ下山した。
 宮崎県日向市 津江保美(83) 2022.4.16 毎日新聞鹿児島版掲載


ヤングケアラー

2022-04-27 15:23:18 | はがき随筆
 話題のヤングケアラーの話をテレビで見た。中学生の息子が、認知症を患った母親の介護をしている。学校にも行けず部活動にも参加できない。買い物、料理、洗濯。家事全般を背負うはめになる。母に服を着せ髪をすき、化粧も簡素に仕上げる。入浴やトイレも介助する目を離せない日々。
 一方、女の子が野菜を切る映像。幼い頃のままごとと重なり、切なさがこみ上げた。学校や部活動もしたいのに、介護をしながら家事をこなす姿に感動。政府には確かな政策を検討していただきたい。ヤングケアラーの未来にまばゆい光を。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(77) 2022.4.16 毎日新聞鹿児島版掲載

その理由

2022-04-27 15:18:11 | はがき随筆
 父はタクシードライバーだった。若い頃、大都会を駆けずり回って私を育ててくれた。覚えてはいないが、母がよく言っている。ウルトラマンの小さな人形や大きなシュークリームを買って来てくれたのよ、と。高い給料ではなかったはずだ。しかし、そんなお土産を、生まれたばかりの子どもに買っていたのだ。
 今、私が客としてタクシーに乗っている。時折、前に座る若い運転手さんに、かつての父を見ているような気分になる。「お釣りは、いいです」とつい言いたくなるのは、実はそういう理由からである。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(52) 2022.4.16 毎日新聞鹿児島版掲載

父さんもつらいよ

2022-04-27 15:10:22 | はがき随筆
 息子が「世間体が悪いし惑うよ」とつぶやいた。孫の高校受験は志望校が残念な結果。孫は「実力不足」と諦めがいいが、息子は引きずった。反抗期が重なり孫は外出も会話も避け、部屋に籠って勉強。息子には積る思いがあったのだろう。
 遠い昔、亡き父が地元大学に入学することを楽しみにしていた。まさかの不合格。落胆した父は「期待するものじゃないな」とぽつり。その後、私は他県の大学に進学できた。
 息子は子育ての難しさを痛感している。「時には本音で話してみたら」と提案した。2人のこれからをそつと見守ろう。
 宮崎市 小金丸潤子(71) 2022.4.15 毎日新聞鹿児島版掲載


行く春に

2022-04-27 15:03:57 | はがき随筆
 西の空を茜色に染めて夕日が落ちる。立田山の右端からサアーッと夕闇が進んで、老人ホームを守るように囲んでいる竹林も暗い森になった。
 窓の下の遅咲きの大輪の桜は深まる闇の中でいちだんと妖艶さが冴え、いさぎよく漆黒の中に沈んでいく。
 ホームにもやっと明かりがともった。神秘なまでの自然のいとなみをこの角度から独り占めしている。
 自分の力なさを嘆き、そして悲しみに生きた90年はちっぽけで塵のように見える。
 窓に映るパノラマの映像のような風景を今日もまた。
 熊本市東区 黒田あや子(89) 2022.4.14 毎日新聞鹿児島版掲載


はやとの風乗車記

2022-04-27 14:55:45 | はがき随筆
 3年前に一度乗ったことがある。吉松から片道ではあるが、フル区間。ラストラン最終日にはやはり乗ってみたかった。ネットで指定席を取れたのかもしれないが、発売日は在東京。
 後日、窓口で粘ってみた。せめて1区間だけでも、と。3月16日に鹿児島中央駅から隼人駅まで40分、乗車できることになった。黒い車体が入線するところからスマホで連写。内部も撮影し、鉄オタ数人と話す。その中に、3年前の人吉の列車フェスに来ていた青年がいて、くま川鉄道のその後を聞いた。
 秋に化粧直しした列車に会いに行こうと思いつつ見送った。
 鹿児島市 本山るみ子(69) 2022.4.13 毎日新聞鹿児島版掲載