はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

行く春に

2022-04-27 15:03:57 | はがき随筆
 西の空を茜色に染めて夕日が落ちる。立田山の右端からサアーッと夕闇が進んで、老人ホームを守るように囲んでいる竹林も暗い森になった。
 窓の下の遅咲きの大輪の桜は深まる闇の中でいちだんと妖艶さが冴え、いさぎよく漆黒の中に沈んでいく。
 ホームにもやっと明かりがともった。神秘なまでの自然のいとなみをこの角度から独り占めしている。
 自分の力なさを嘆き、そして悲しみに生きた90年はちっぽけで塵のように見える。
 窓に映るパノラマの映像のような風景を今日もまた。
 熊本市東区 黒田あや子(89) 2022.4.14 毎日新聞鹿児島版掲載


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