はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

二つの憂い

2022-04-26 23:58:50 | はがき随筆
 世界を揺るがすウクライナとロシアの戦争。その最中、鹿屋の自衛隊航空基地に無人偵察機を一時配備する動きがある。中国の軍事活動が、活発化し、周辺海域での警戒監視が目的らしい。
 しかし、万が一の有事の際、基地は真っ先に狙われる可能性がある。また、米軍関係者の駐留となると、更なる心配もある。沖縄がそうだったように、新型コロナウイルスの感染が急拡大しないだろうか。
 日米地位協定が見直されないまま甘い検疫で駐留されると、市民はその度にウイルスの恐怖におびえることとなる。暮らしに影響が出ないよう切に願う。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(72) 2022.4.9 毎日新聞鹿児島版掲載

傾斜の恵み

2022-04-26 23:50:59 | はがき随筆
 小学6年の時、先生が「なぜ春夏秋冬があるのかわかる者はいるか?」と聞いたが誰も手を挙げず、私に当たった。とっさに「地球が太陽の周りを公転する際、太陽に最も近づく時が夏、遠い時が冬。春と秋はその中間です」と答えると、先生は「とんでもない考えだ」と一喝。
 正解は地軸が垂直ではなく、23.4度傾斜していることにより、公転中に太陽が真上近くに来る時が夏、最も太陽高度が低い時が冬である。つまり、四季はこの傾斜による恩恵である。
 冬至までは高度が下がり、以後夏至まで上がり続ける。途中、春の彼岸を経由しながら。
 宮崎市 杉田茂延(70) 2022.4.8 毎日新聞鹿児島版掲載

小さなナイト

2022-04-26 23:44:33 | はがき随筆
 家族旅行でも夕方になると「お家へ帰りたい」という1年生の男の子が、春休みに入って「ばあちゃんちにお泊りする」とやってきた。1日目は本屋さんでお目当てのポケモンの本をゲットして大満足。2泊め、お母さんに電話で言いにくそうに「やっぱり帰りたい」と言っている。でもすぐ「うん、わかった」と決断。訳を聞いても言わないが、「ばあちゃんが独りで寂しいからそばにいてあげて。頼んだよ」とでも言われたか。「どうしてばあちゃんは独りでこの家にいるの?」と気にしていたもんね。お泊りしてくれて心強かったよ。ありがとう。
 熊本市中央区 渡邊布威(84) 2022.4.7 毎日新聞鹿児島版掲載

再任用

2022-04-26 23:36:25 | はがき随筆
 ずっと前から決めていたことがある。「教職人生の最後は担任で終わりたい」と。担任から始まり、管理職でなく一教諭としてもう一度子どもと向き合ってみたいと願っていた。5年前、退職は節目であり終わりではないと迷わず再任用希望を出した。再任用では久しぶりに複式を経験し、卒業学年を受け持つことができた。初めて2年生を担任した4月当初は授業の進展に戸惑った。教務・研修主任は30代の気概を思い出した。快く受け入れてくれた同僚に深く感謝したい。2度目の退職。旅行や登山、童話や俳句、畑と夢は広がる。奉職の四十三年弥生尽。
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(65) 2022.4.6 毎日新聞鹿児島版掲載

一輪の花

2022-04-26 23:17:14 | はがき随筆
 夕方近く、雨も上がり、歩くことに。狭い道路は用心して排水溝の蓋の上を。ふと足元を見ると、コンクリートの蓋のすき間に一輪の小さな可憐な花。座り込んで観察すると、土も見当たらない。よくもこんな所に。生命力に感心してスマホで写す。花の名前が分らず、植物に詳しい知人に尋ねた。早速調べてくれて、名前は「ハナニラ」。特徴まで教えてくれた。小さな星型の花は、太陽に向かって咲くという。毎日早朝の散歩の時はまだ蕾のまま。気になってお昼過ぎに見に行く。人通りがないわけではないが気づく人はいない。いつまでも元気でね。
 熊本市中央区 原田初枝(91) 2022.4.4 毎日新聞鹿児島版掲載

海へ

2022-04-26 23:16:21 | はがき随筆
 砂浜を歩く時の靴底の感触。気を付けていても、靴の中に砂が入り異物感は半端ない。なぎさに立った遠い日。海水に靴をぬらされたこともあったっけ。
 工場の並ぶ市街地から、海辺の少し寂しい土地に引っ越したのは15歳の夏。いつものように台風はやって来た。強い風に打たれながら私は庭に立ち、背伸びをして海の方を見やった。
 ああっ。高潮だ。
 3年ぐらい海を見ていない。里住まいが久しいせいか年の1度ほど無性に海が恋しくなる。春、一人海へ車を走らせた。しばし日向灘の白い波が横に走っては崩れるさまを眺めていた。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(74) 2022.4.5 毎日新聞鹿児島版掲載


ふかふかな春

2022-04-26 23:09:26 | はがき随筆
 2月初め、下校途中の小学生2人の男の子と出会った。「めっちゃ気持ちいいよ。ふかふかして。踏んでみて」。もう一人の友達を誘っていた。寒さと乾燥で干からび、塀からはがれ落ちたコケを踏んでいた。踏むとはと思ったが、これも道草の学習かな。「おばさんも踏んでいい?」「いいよ。どう? 気持ちいいでしょ!」。靴底から頭の芯までコケの感触が伝わり「本当、ふかふかしてる」。この子たちの未来に幸あれと願いつつ「ありがとうね。気をつけて帰ってね」と言葉を掛け別れた。寒い日にほかほかな早春を味わうすてきな一日となった。
 鹿児島県指宿市 外薗恒子(68) 2022.4.3 毎日新聞鹿児島版掲載

その一言が

2022-04-26 23:01:41 | はがき随筆
 息子の家族が休みに帰ってきたいと言う。孫娘の念願の中学入学が決まり、幸せいっぱいの報告がしたいのだと思ったが「ちょっと待った」の一言が言えなかった。主人は新型コロナワクチン接種後の倦怠感が続き、布団は敷きっぱなしである。そのことを息子に伝えられないまま日にちが迫る。楽しみからか主人が布団から起き上がる時間がながくなり、ついに「布団を上げてもいい」と。孫の顔が何よりの特効薬で、元気さをアピールしているのがおかしい。わが家から感染者を出してはいけないという頑固さもどこへやら。このまま布団を上げられるか。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(76) 2022.4.2 毎日新聞鹿児島版掲載

健康寿命

2022-04-26 22:55:25 | はがき随筆
 道路横に畑があるので、知っている人とも知らない人とも気軽にあいさつをする。
 それにしても、このごろウオーキングする人が増えたと感じる。コロナで閉じこもる中、皆健康に気を付けているのだろう。
 宮崎県女子は健康寿命が全国3位とのこと。これはうれしいできごとだった。私も寿命自体は気にしないが、元気で長生きの努力は続けたい。特に甘いものを控え体重を気にしながら。
 風が冷たくなった夕方「おつかれさま」の声。私も「ありがとう。野菜持って行きない」。こんな何気ない会話も私の健康寿命を延ばしてくれるのかな。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(74) 2022.4.2 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝

2022-04-26 22:47:44 | はがき随筆
 最近、私にとって忘れられないうれしいことがあった。いずれも買い物に行っての出来事である。
 最初は、店を出てのこと。後ろから「荷物をお持ちしましょうか」と声をかけられた。見れば、小学生くらいの子供さんを連れた若いお母さん。「結構です。ありがとうございます」と答えた。私は立派な家庭教育をしておられると思った。
 次も店を出てからのこと。段差で私が転んだ時、近くの車から若い女性が走って私の所に来られた。幸いにも私がすぐ立ち上がれたので、自分の車に帰られた。この素早い行動に深謝。
 熊本市東区 角田俊昭(89) 2022.4.2 毎日新聞鹿児島版掲載

幸せ

2022-04-26 22:40:46 | はがき随筆
 新型コロナの止まらない勢い。ロシアのウクライナ侵略。米国との核兵器共有化の声の増大。テレビにはウクライナからの避難民の行列に、母親に抱かれながらも恐怖と不安を隠しきれない幼児の顔の大写し。罪のない子供に不幸を負わせる者どもの罪の深さ。気をめいらせることの多い日々。
 そんなある日、孫からの電話。「やっと子供ができ、女の子のようで7月が出産予定日です」とのこと。結婚して7年目で、その喜びが電話口からあふれ出ていた。こんな情勢下、少々の後ろめたさを感じながらも、ひ孫に会える幸せをかみしめた。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(80) 2022.4.2 毎日新聞鹿児島版掲載

夢の教室から45年

2022-04-26 22:33:56 | はがき随筆
 夫との出会いは市主催の「君と僕の夢の教室」という講座だった。今聴くと笑ってしまうタイトルだけど、キラキラしていたあの若き日々が懐かしい。
 有意義な講座でいろいろ学んだはずだが、覚えているのは、最後のお別れパーティーのワンシーンだけ。私たち女性3人が学生服を着て、夫たち男性3人がかつらとミニスカートでキャンディーズにふんし、歌って踊って盛り上がったこと。あの頃の皆さんはお元気だろうか?
 あれから45年。縁あって夫婦となった私たちは、子ども3人を授かり、孫5人に恵まれた。それだけで夫には大感謝だ。
 宮崎県延岡市 品矢洋子(68) 2020.4.2 毎日新聞鹿児島版掲載

大相撲にはまる

2022-04-26 22:27:15 | はがき随筆
 最近、大相撲に興味が出てきました。見る時間に余裕が出たためだと思います。取り組みが進むと、相撲取りの体型がいかにもという良い体格になります。大きな手で豪快に清めの塩をすくい、天井に向かって大胆に投げる仕草は大いにうけます。塩の意味とか、一日に使う量とか、どこの塩とか、スマホで調べました。立ち合いのすごい迫力。ぶつかる音がドカーンと聞こえそうです。小股すくい、すくい投げなど見ていて気持ちがスッキリします。体の小さな力士が、大きな相手を投げたときには、つい拍手をしてしまいます。今日は千秋楽、ドキドキ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2022.4.2 毎日新聞鹿児島版掲載

山が呼んでいる

2022-04-26 22:19:06 | はがき随筆
 雲一つない青空の下、朝日を浴びて深呼吸。家にじっと居るのはもったいないと思うや以心伝心、山登りの誘いの電話。二つ返事で快諾し、おにぎりと残り物で弁当を作り出発。
 駐車場にはたくさんの車。若いカップルや家族連れの中に中高年のおひとりさま登山者も。
 走るがごとく登っていく中学生グループ。ある女性は「山が呼んでいるので出かけてきました」「まさにぴったりのすてきな言葉ですね」。笑顔を交わし、元気よく登っていった。
 今日の日を十分楽しみ、明日も元気でと心に誓う春登山の一日だった。
 宮崎市 高橋厚子(72) 2020.4.2 毎日新聞鹿児島版掲載

丁寧な暮らし

2022-04-26 22:01:09 | はがき随筆
 「私ね、朝のみそ汁は最後の一滴までお椀にいれるの。そしてお代わりなし」「お花は一度目は師匠から習った生け方、二度目はその花の長さを切り替えて違う生け方もしてたのよ」。笑みを浮かべながら話してくれたのは、私が20代に習っていたお茶お花の先生。先生は専業主婦で茶道華道を習い免許取得後、教室を開かれた。自宅は無駄がなくいつもすっきり。あれから45年、物を大切にして丁寧に暮らす先生の生き方は、今も「貴女はどうやってる?」と問いかける。少しでも近づきたいと思う日々である。風の便りに、94歳の先生は今もお元気。
 熊本県八代市 今福和歌子(72) 2022.4.1 毎日新聞鹿児島版掲載