はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

つぶやけば…

2013-02-13 14:12:53 | はがき随筆
 大みそか、正月の準備であたふたしているところに息子が帰ってきた。仏壇で拝んだ後はスマホに没頭。私は新聞の平山郁夫展の切り抜きを彼の前に置き、どうしようかなあと、つぶやいた。「今のうちに行きたいところに行った方がいいよ。連れて行こうか」と思いがけない言葉が返ってきた。私の胸は膨らんだ。しかし、息子は多忙で仕事を休めそうもない。その気持ちだけでうれしいと期待しないことにした。数日後、新幹線の往復料金が書留で届いた。正月、世話になったお礼だろうか、1人分なら割安との計算なのか。ともあれ言ってみるもんだ。
  伊佐市 山室浩子 2013/2/10 毎日新聞鹿児島版掲載

通過は一瞬

2013-02-13 13:51:28 | はがき随筆
 今朝も見れた。頑張っている。5.6年前から、あるお店の前の男性が気になった。仕事へ行く車の中からだが。
 年の頃は40前とおぼしきその人は、従業員らしく作業服を着て、黙々と一定のリズムで店先から道路まで掃いている。
 道はコンクリート造りだが、ほうき目を確かめるようにいつも下を向いて手を動かしている。回を重ねるうちに、こつこつ日々おなじことを繰り返す姿は働くお手本なんだ、見習わなくては、と元気ももらった。
 残念ながら私の仕事は終わりが近い。励まされた分、これからは応援していこう。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2013/2/8 毎日新聞鹿児島版掲載

野鳥の餌食

2013-02-13 13:46:10 | はがき随筆
 この冬は野鳥が多かった。センリョウの実は早くから食べられ、正月の飾り用もなかった。島ミカンまでもやられた。
 多分ヒヨドリで。早くからちぎっていたので減ってはいたが、夕方見ると食いちぎられ果肉はなく、皮だけが無残に垂れ下がっていた。
 遠くからはまだなっているように見えていたが、見事に食いちぎられ、皮だけがロート状になっていた。人間の分を野鳥が食べてくれたのだ。
 「おいしかったね、よかったね」「また来年も来てね」と、あきれて拍手した。
  出水市 畠中大喜 2013/2/7 毎日新聞鹿児島版掲載

春の足音

2013-02-06 23:13:59 | はがき随筆
 まだ冬だというのに、梅はもうふくらんだ花芽をつけている。
 私はSさんからもらった、中国人歌手・王さんの歌のテープの「早春賦」「花」などをよく聴く。歌は、1番を日本語で、
二番を中国語でと、交互に歌われている。王さんは歌で、日本の童謡や唱歌のすばらしさ・日本の美しい心を、中国にも広めた人だという。
 私は何回聴いても、王さんと彼の歌の、春のような温かさ・優しさに包まれて感動する。
 光のまったくないSさんの贈り物のテープは、私の宝だ。どの国のどんな人にも、春の足音が訪れてほしいと、私は思う。
  出水市 小村忍 2013/2/6 毎日新聞鹿児島版掲載

あっない!

2013-02-06 23:07:11 | はがき随筆
 ラジオ体操を済ませ、おやつを買いに行くので髪にくしを入れ、口をすすいで義歯を捜すが、ない。昨夜洗って机のティッシュの上に置いたのに見当たらない。外はまだ暗いしこの付近の人に会うこともないはずだから、帰ってから捜そうと外に出た。おやつを買っての帰り道、義歯のことが機になり始めた。帰ってから見当をつけていたところを捜すがない。さてはとゴミを入れた袋の固い包みの中を捜すと、ティッシュにしっかりくるんだ塊が。「あった、よかった」という気持ちをこえて「また…」という“要注意令”の私。
  鹿児島市 東郷久子 2013/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

決められた道

2013-02-06 22:58:12 | はがき随筆
 昔は学芸会といったのかしらん。今は学習発表会と文化祭。楽器も違っていたようだ。私の頭の中は3月の忘れ雪の頃。
 中学校の劇「万朶の桜」で演じた役が元郵便局員。近所の大工がこしらえてくれた木製の鉄砲を威張って肩に掛けた。隣には元教員役の幼なじみ。時を経て五十数年。今は郵便局を退職、スクールガードを委嘱されている。隣の友は校長を幾校か勤めて県の重鎮だった風。
 あの劇のままのような2人の人生はあの劇を指導した国語の先生の計らいだったのか、なくなられた先生にもう聞くすべはない。今でも気になっている。
  いちき串木野市 新川宣史 2013/2/4 毎日新聞鹿児島版掲載

闘病記その10

2013-02-06 22:52:39 | はがき随筆
 昨年は約10ヶ月の入院。11月の骨の検査により、退院と医師に言われた。まだがん細胞はあるが歩けるようになり「奇跡だろう」と看護師やリハビリのトレーナーも驚嘆。夫の顔色もよく健やかに見える。退院後は月に1回の通院となる。クリスマスも孫たちと愉快に過ごし、お正月もめでたく迎えた。至福の時だ。6歳と4歳の孫息子から「じいじ元気になってよかったね」と。じいじは「ありがとう」と礼を言った。孫は、じいじの顔を画用紙いっぱいに描き始めた。大きい眉、大きい目と口、立派なじいじの顔のできあがり。「退院おめでとう」
  姶良市 堀美代子 2013/2/3 毎日新聞鹿児島版掲載

今を大切に

2013-02-06 22:47:18 | はがき随筆
 「体のどこも悪くないでしょう」と人によく言われる。ところがご多分に漏れず首と肩に違和感と痛みがある。70年あまり使い続けた体。機械と同じでどこか不具合がでてくるのは当然かもしれない。治療や薬でも、ぬぐい去るように快方には向かってくれない。ところが、たいして不自由もなく、老いとはこんなものと思うことにしている。有り難いことは、丈夫に生んでくれた両親や先祖のお陰と感謝している。人生長くなった分だけ思いがけない事に遭遇するかもしれない。その時はその時だから、今を大切にしたいものだ。
  霧島市 口町円子 2013/2/2 毎日新聞鹿児島版掲載

「ひとり占い」

2013-02-04 22:54:02 | 岩国エッセイサロンより
2013年2月 4日 (月)

岩国市  会 員   山下 治子

 お年玉付き年賀はがきの当選番号が発表された。いくらもない枚数だが、切手シートは必ず当たっていた。過去最高の景品は携帯ラジオ。最近では「郷土の特産品」で、牛肉を頂いた記憶がある。
 期待を込め、年賀状の数字を見る。見落としたか、と再度はがきを確かめる。無い、1枚も無い。こんなこと初めてだ。ということは今年はツキが薄い年なのだ、と決めつけた。
 数日後、訪れた友人が「ごめん、出しそびれた」。更の年賀はがきを手渡された。「当たっているよ、4等だけどね」。よかった、今年もいい年なんだ。

   (2013.02.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「笑顔配達人」

2013-02-01 22:42:09 | 岩国エッセイサロンより
2013年2月 1日 (金)

    岩国市  会 員   貝 良枝

 駄菓子屋で金平糖やラムネ菓子を買う。「あの人はどんなのが好きかな? あの人は……」と考えながら20個余りを選ぶのは楽しかった。
 家に帰り、菓子一つ一つにひもをつけ、大きな袋に忍ばせる。今週末にあるエッセーの会の会合で福引をしよう。ひもを引っ張って、小さな「福」を引き寄せてもらおう。みんな、どんな顔になるかな。好みのお菓子が当たるといいな。一芸はできないが、今年もみんなに笑顔を配達できることを考えよう。
 どんな手順で始めようか。盛り上がる方法を思いつき、ニヤリ。

     (2013.02.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「福は内」

2013-02-01 22:40:45 | 岩国エッセイサロンより
    山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 店先に並ぶ節分グッズを見ながら実家の節分を思い出した。父の豆まきは掛け声が独特だ。
「福は内、福は内、鬼は外」。
 「福は内」は大きな声で思いっきり豆をまく。「鬼は外」は小さな声で、まき方も控えめ。聞いたことはないが、鬼を追い出すよりも福を呼び込みたかったのだろうか。
 そんな父の中に鬼は居場所を見つけた。肺気腫という鬼は居心地がいいのか、出て行く気配がない。それでも父は楽しそうだ。そばにいる母が福を呼び込むからだろう。我が家にも福が来るといいな。今年は父のまねをして豆まきをしてみよう。

    (2013.02.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

誤訳

2013-02-01 18:17:18 | はがき随筆
 ついていけるかなと思っていた英文を読む会で、はや1年も頑張っている。予習では3回も4回も読みながら文章の輪郭をつかむ。その推し量る過程が何とも楽しい。テキストは「モリー先生との火曜日」。この先生は逆境で育ち知見を磨いた。彼は愛の知で、文明の病理を突いた。そして筋萎縮の不治の難病に陥りながらも不屈の精神で人々を援助した。和訳では「単語の意味はわかるのに」が多い。いくら考えても解けない数行が自分に当たってしまった。エイヤッと作って、どう? と問うた。後で訳本を読み、その誤訳ぶりに爆笑された。
  松尾繁 2013/2/1 毎日新聞鹿児島版掲載 毎日新聞鹿児島版掲載

赤い雨

2013-02-01 18:09:30 | はがき随筆
 <巷ニ雨ノ降ル如ク 我ガ心ニモ涙降ル>
 学生時代、ヴェルレーヌのその詩をよく愛読した。最近、その一節が、ふと口に出る。そして青年の頃の憂いとは違った悲しみにいつの間にか浸っている自分に気付く。別に道化した人生を過ごしたわけじゃない。年を取ると皆そうなのか?
 「立て膝に顔を伏した裸婦を描いて雨を降らそう。裸体を通して今の心情を水彩画に表現してみよう」と思い立った。悲しみのかたちを探すかのようにデッサンを始めた。デッサンを続けて数日後、画のタイトルが思い浮かんだ。<赤い雨>だ。
  出水市 中島征士 2013/1/31 毎日新聞鹿児島版掲載

うそはつけない

2013-02-01 16:48:59 | はがき随筆
 小学3年の時、国語の教科書にエジソンの発明を巡る助手とのエピソードが載っていた。授業参観日に先生が「この話で面白いところは?」。たくさんの手が挙がった。私は挙げなかったのになぜか当てられた。「面白いところはありません」と言うと先生は一瞬戸惑われたようだが、ほかの子たちから「ハイ! ハイ!」と声がして私は着席した。その夜、母から「今日は恥ずかしかったよ」と言われ、とても困った。今なら分かる。人が期待することを言えば世の中うまくいくと。あの頃の私は自分に素直過ぎた。
  鹿児島市 種子田真理 2013/1/29 毎日新聞鹿児島版掲載