はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ひったまげたなあ

2013-02-18 16:53:09 | はがき随筆


 今年も菜の花マラソンは2万人近くの参加で、雨の中盛大に行われた。母校の隼人町の宮内小学校の時の担任、西川原幸雄先生は17回目の出場。84歳だ。電話してみると「今年も走ったよ。8時間かけて完走。1万3000番だった。ゴールで妻と抱き合って泣いたよ」。ひったまげたなあ。まことようきばいやいもんだ。雨の中、寒く凍えて、泣きながら死にものぐるいで走ったという。ゴールが近づいて来た時、自分で自分に褒美をやりたいと思ったという。完走の感激が伝わって来た。命ある限り挑戦する先生。
 きばいやったもんせ。
 山口県光市 中田輝子 2013/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載

と、その時!

2013-02-18 16:46:05 | はがき随筆
正月気分も抜けた夕食後、テレビのドキュメンタリー番組を見ているときのこと。めったに見られない珍現象を外国で追っている内容で、時間切れが迫りスタッフも帰り支度に入った。
 「と、その時!」
 カミさんと私が同時に口走った。私の左側に座っているカミさんは、右手で私の肩をたたき、私の左耳を引っ張る。私は左手を伸ばしカミさんの肩をたたき右耳を引っ張る。そして顔を見合わせニヤリ。これは九州地方の風習かと思うが、結婚生活も45年過ぎたというのに、いまだにこんな事を繰り返しているおめでたい老夫婦である。
  西之表市 武田静瞭 2013/2/17 毎日新聞鹿児島版掲載

華の街パリ

2013-02-18 16:28:11 | はがき随筆


 壊しては高層ビルにする日本と違って街全体が長い歴史を誇る石造建築の街パリ。荘厳華麗でさすが世界一の観光都市。
 1日目は凱旋門やシャンゼリゼ通りなどをバスで見学。2日目は自由行動。長女と2番目の孫と私の3人はまずオルセー美術館へ。19世紀絵画のゴッホやモネ、ゴーギャンなどの絵に感動。次は少女時代からの憧れだったノートルダム寺院へ。鐘楼を仰ぎ見つつ昔の映画を思った。長い行列に並んで中へ。内部は有名なバラなどの鮮やかなステンドグラスが圧巻。執務中の黒衣の司祭も彫刻のようで目だけが動いていた。
  霧島市 秋峯いくよ 2013/2/16 毎日新聞鹿児島版掲載

携帯電話

2013-02-18 16:22:21 | はがき随筆
 最近になって相方が、携帯電話を欲しがる。私には親の介護や子供との連絡に欠かせないアイテムであり、必要に迫られ3年前から使い始めた。理系の人間である相方は、私が携帯を使い慣れているのがどうも許せないらしい。娘とメールしたいとのこと。娘も子育てに仕事と多忙を極め、父親の相手をする暇はないに等しい。可哀そうだ。言い出したら後に引けない性分故、何が何でも自分専用を所有したいらしい。私からは、単なる60代の反抗期でダダをこねているとしか思えない。中高生だとまだ可愛いのに、ちょっと早い春闘か?
  鹿屋市 中鶴裕子 2013/2/15 毎日新聞鹿児島版掲載

今年もまた

2013-02-18 16:15:42 | はがき随筆
 年末ジャンボ宝くじを買い始めて何十年。毎年、下1桁の当選だけ。もう今年は買わないと思いつつ、宝くじ販売が今日までという声につい負けた。
 天文館で50枚、地元で30枚、その日から夢が膨らみ始めた。まず古い洗濯機とクーラーを買い替え、4人の子供に1億円ずつ。老犬「らん」を連れて豪華客船に乗って世界一周クルーズ。抽選はあったが、忙しさで番号を見る事なく、夢は膨らむ一方。数日たって下1桁当選が8枚、2400円なり。
 夢くずれ「買わんなよかった」。でも一時の夢、ありがとう。楽しかった。
  阿久根市 的場豊子 2013/2/14 毎日新聞鹿児島版掲載

一かけ、二かけ

2013-02-18 16:09:04 | はがき随筆
 昨年、鹿児島県老人クラブより懐かしの愛唱歌集を頂きました。パラパラとページをめくっていますと、私の目が一つの歌詞の上でとまりました。西郷隆盛が歌詞に出てくるわらべ歌でした。「一かけ二かけ三かけて」と始まるかぞえ歌です。私も70年前に皆と歌っておりました。しかし私は、当時はこの歌はてっきり何かの替え歌だと思っていたのです。
 歌は、「十七、八の姉さんが花と線香手に持って、姉さん姉さんどこへ行く、わたしは九州鹿児島の西郷隆盛むすめです」と続きます。私は久しぶりに子供の頃に帰りました。
  鹿児島市 野幸祐 2013/2/9 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆1月度

2013-02-18 15:42:52 | 受賞作品
はがき随筆1月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】4日「久連子鶏」小村忍(69=出水市)
【佳作】1日「きらめく瞳」新川宣史(65)=いちき串木野市
▽28日「流れ着いた物」高橋誠(61)=鹿児島市


 久連子鶏 五家荘に行き、久連子鶏を見た印象です。九連子村では、学童もいなくなり、学校も廃校になり、寂しいかぎり。しかし、平家の落人にゆかりの九連子鶏は、美しい羽色を見せて800年の歴史を生きていた。廃れいくものの歴史と残り続ける命とが対比されていて、美しい文章になっています。九連子鶏という文字の、見た目と響きの印象が全体を引き立てています。
 きらめく瞳 幸い脳梗塞の後遺症がなかったので、毎朝学童の保護活動をしている。なかには感謝の言葉を返して登校する1年生もいて、慰めになる。その子のきらめく瞳に、家庭教育の様子が知られ、将来に希望がもててくるという、気持ちのよい文章です。
 流れ着いた物 高知県の漂流物博物館(?)のお土産が、娘さんから送られてきた。流木が一本、むきだしのままで、切手は国際文通週間の記念切手。娘さんの意図と、それを酌んでくれた郵便局員の好意とがこめられた美術品ではあった。こういう心のつながりは、読んで幸福な気分になります。
 この他に3編を紹介します。
 若宮庸成さんの「今年の夢」は、大リーグの開幕試合を東京ドームでみたら、病みつきになり、今や夫婦の夢は、ヤンキースタジアムでイチローと黒田を見ることだという楽しい文章です。その費用は葬儀資金をとり崩すそうて、いいですね。
 年神貞子さんの「ヨイトマケ」は、紅白歌合戦で聞いた、ヨイトマケの歌に触発されての回想です。戦後に、校舎建設の手伝いにヨイトマケをしたが、今はその校舎も市民の広場になってしまっている。こぞの雪今いずこ、余情の残る文章です。
 清水恒さんの「今浦島」は、10年以上人里離れた場所で仕事をしているうちに、今浦島になってしまった。コンポを買っても使い方が分からない。説明書もまるで宇宙人のもののようだ。それでも死ぬまでに、カラオケ一曲くらいは歌えるようになりたいものだ。なんともいえぬおかしみのある文章です。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)