はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「笑顔配達人」

2013-02-01 22:42:09 | 岩国エッセイサロンより
2013年2月 1日 (金)

    岩国市  会 員   貝 良枝

 駄菓子屋で金平糖やラムネ菓子を買う。「あの人はどんなのが好きかな? あの人は……」と考えながら20個余りを選ぶのは楽しかった。
 家に帰り、菓子一つ一つにひもをつけ、大きな袋に忍ばせる。今週末にあるエッセーの会の会合で福引をしよう。ひもを引っ張って、小さな「福」を引き寄せてもらおう。みんな、どんな顔になるかな。好みのお菓子が当たるといいな。一芸はできないが、今年もみんなに笑顔を配達できることを考えよう。
 どんな手順で始めようか。盛り上がる方法を思いつき、ニヤリ。

     (2013.02.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「福は内」

2013-02-01 22:40:45 | 岩国エッセイサロンより
    山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 店先に並ぶ節分グッズを見ながら実家の節分を思い出した。父の豆まきは掛け声が独特だ。
「福は内、福は内、鬼は外」。
 「福は内」は大きな声で思いっきり豆をまく。「鬼は外」は小さな声で、まき方も控えめ。聞いたことはないが、鬼を追い出すよりも福を呼び込みたかったのだろうか。
 そんな父の中に鬼は居場所を見つけた。肺気腫という鬼は居心地がいいのか、出て行く気配がない。それでも父は楽しそうだ。そばにいる母が福を呼び込むからだろう。我が家にも福が来るといいな。今年は父のまねをして豆まきをしてみよう。

    (2013.02.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

誤訳

2013-02-01 18:17:18 | はがき随筆
 ついていけるかなと思っていた英文を読む会で、はや1年も頑張っている。予習では3回も4回も読みながら文章の輪郭をつかむ。その推し量る過程が何とも楽しい。テキストは「モリー先生との火曜日」。この先生は逆境で育ち知見を磨いた。彼は愛の知で、文明の病理を突いた。そして筋萎縮の不治の難病に陥りながらも不屈の精神で人々を援助した。和訳では「単語の意味はわかるのに」が多い。いくら考えても解けない数行が自分に当たってしまった。エイヤッと作って、どう? と問うた。後で訳本を読み、その誤訳ぶりに爆笑された。
  松尾繁 2013/2/1 毎日新聞鹿児島版掲載 毎日新聞鹿児島版掲載

赤い雨

2013-02-01 18:09:30 | はがき随筆
 <巷ニ雨ノ降ル如ク 我ガ心ニモ涙降ル>
 学生時代、ヴェルレーヌのその詩をよく愛読した。最近、その一節が、ふと口に出る。そして青年の頃の憂いとは違った悲しみにいつの間にか浸っている自分に気付く。別に道化した人生を過ごしたわけじゃない。年を取ると皆そうなのか?
 「立て膝に顔を伏した裸婦を描いて雨を降らそう。裸体を通して今の心情を水彩画に表現してみよう」と思い立った。悲しみのかたちを探すかのようにデッサンを始めた。デッサンを続けて数日後、画のタイトルが思い浮かんだ。<赤い雨>だ。
  出水市 中島征士 2013/1/31 毎日新聞鹿児島版掲載

うそはつけない

2013-02-01 16:48:59 | はがき随筆
 小学3年の時、国語の教科書にエジソンの発明を巡る助手とのエピソードが載っていた。授業参観日に先生が「この話で面白いところは?」。たくさんの手が挙がった。私は挙げなかったのになぜか当てられた。「面白いところはありません」と言うと先生は一瞬戸惑われたようだが、ほかの子たちから「ハイ! ハイ!」と声がして私は着席した。その夜、母から「今日は恥ずかしかったよ」と言われ、とても困った。今なら分かる。人が期待することを言えば世の中うまくいくと。あの頃の私は自分に素直過ぎた。
  鹿児島市 種子田真理 2013/1/29 毎日新聞鹿児島版掲載