はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

夢に見た帆船

2013-02-21 13:10:39 | はがき随筆


 「太平洋の白鳥」。新聞にある日本丸寄港の見出し。夜を彩るイルミネーションの写真は、出不精に陥りがちな私にスイッチを入れ、停泊中の波止場へ足を運ばせた。雲が切れ青空が広がるのを見て自宅を飛び出す。
 全長110㍍のマスト、青海原の錦江湾、桜島を背にした日本丸は、まさに翼を休める白鳥だ。
 夜の海に照らし出された怪しげなさまは、海上を横行する海賊船、剣を手に片目を覆った大将と子分たちが今にも現れそうな錯覚を与える。日本丸は私が見た少年時代の絵本の世界を思い出させてくれた。
  鹿児島市 鵜家育男 2013/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

落ちる

2013-02-21 12:17:48 | はがき随筆
 朝刊がコトリと新聞受けに落ちた。家族を起こさないよう忍び足で階段を下りる。45年前。京都大学の県内高校の合格者名を目で追う。合否電報は頼んでこなかった。──雨戸を開け外に出た。春とはいえ、空気は冷たく肌を刺す。
 私はどうしてよいか分からず思い切り顔を空に上げた。まだ明け切らない群青色の半球に星が瞬いている。両の目から涙が流れる。止めどなく。
 「死んでもいい」と勝手に退院して、その夜から徹夜で勉強に打ちこんだ結果だ。私の横を、爆音を響かせた長距離トラックが通り過ぎて行った。
  霧島市 久野茂樹 2013/2/19 毎日新聞鹿児島版掲載

育メン

2013-02-21 11:26:33 | はがき随筆
 数年前、どこかの県知事が生まれたばかりの子供のために育児休暇を取ったことが話題になった。
 自分たちにとっての初孫である赤ちゃんに対して、娘も育児に懸命であるのは、やはり母性本能のなせることと思う。
 婿殿も帰宅するや、赤ちゃんを風呂に入れたり、おむつを替えたりして育メンぶりを発揮している。
 昔を振り返って、自分は娘や息子のおしめを替えなかった。妻にはもちろん子供たちに申し訳ない気分である。
 今からでも育メンは遅くないとひそかに思うが……。
  鹿児島市 下内幸一 2013/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

ひったまげたなあ

2013-02-18 16:53:09 | はがき随筆


 今年も菜の花マラソンは2万人近くの参加で、雨の中盛大に行われた。母校の隼人町の宮内小学校の時の担任、西川原幸雄先生は17回目の出場。84歳だ。電話してみると「今年も走ったよ。8時間かけて完走。1万3000番だった。ゴールで妻と抱き合って泣いたよ」。ひったまげたなあ。まことようきばいやいもんだ。雨の中、寒く凍えて、泣きながら死にものぐるいで走ったという。ゴールが近づいて来た時、自分で自分に褒美をやりたいと思ったという。完走の感激が伝わって来た。命ある限り挑戦する先生。
 きばいやったもんせ。
 山口県光市 中田輝子 2013/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載

と、その時!

2013-02-18 16:46:05 | はがき随筆
正月気分も抜けた夕食後、テレビのドキュメンタリー番組を見ているときのこと。めったに見られない珍現象を外国で追っている内容で、時間切れが迫りスタッフも帰り支度に入った。
 「と、その時!」
 カミさんと私が同時に口走った。私の左側に座っているカミさんは、右手で私の肩をたたき、私の左耳を引っ張る。私は左手を伸ばしカミさんの肩をたたき右耳を引っ張る。そして顔を見合わせニヤリ。これは九州地方の風習かと思うが、結婚生活も45年過ぎたというのに、いまだにこんな事を繰り返しているおめでたい老夫婦である。
  西之表市 武田静瞭 2013/2/17 毎日新聞鹿児島版掲載

華の街パリ

2013-02-18 16:28:11 | はがき随筆


 壊しては高層ビルにする日本と違って街全体が長い歴史を誇る石造建築の街パリ。荘厳華麗でさすが世界一の観光都市。
 1日目は凱旋門やシャンゼリゼ通りなどをバスで見学。2日目は自由行動。長女と2番目の孫と私の3人はまずオルセー美術館へ。19世紀絵画のゴッホやモネ、ゴーギャンなどの絵に感動。次は少女時代からの憧れだったノートルダム寺院へ。鐘楼を仰ぎ見つつ昔の映画を思った。長い行列に並んで中へ。内部は有名なバラなどの鮮やかなステンドグラスが圧巻。執務中の黒衣の司祭も彫刻のようで目だけが動いていた。
  霧島市 秋峯いくよ 2013/2/16 毎日新聞鹿児島版掲載

携帯電話

2013-02-18 16:22:21 | はがき随筆
 最近になって相方が、携帯電話を欲しがる。私には親の介護や子供との連絡に欠かせないアイテムであり、必要に迫られ3年前から使い始めた。理系の人間である相方は、私が携帯を使い慣れているのがどうも許せないらしい。娘とメールしたいとのこと。娘も子育てに仕事と多忙を極め、父親の相手をする暇はないに等しい。可哀そうだ。言い出したら後に引けない性分故、何が何でも自分専用を所有したいらしい。私からは、単なる60代の反抗期でダダをこねているとしか思えない。中高生だとまだ可愛いのに、ちょっと早い春闘か?
  鹿屋市 中鶴裕子 2013/2/15 毎日新聞鹿児島版掲載

今年もまた

2013-02-18 16:15:42 | はがき随筆
 年末ジャンボ宝くじを買い始めて何十年。毎年、下1桁の当選だけ。もう今年は買わないと思いつつ、宝くじ販売が今日までという声につい負けた。
 天文館で50枚、地元で30枚、その日から夢が膨らみ始めた。まず古い洗濯機とクーラーを買い替え、4人の子供に1億円ずつ。老犬「らん」を連れて豪華客船に乗って世界一周クルーズ。抽選はあったが、忙しさで番号を見る事なく、夢は膨らむ一方。数日たって下1桁当選が8枚、2400円なり。
 夢くずれ「買わんなよかった」。でも一時の夢、ありがとう。楽しかった。
  阿久根市 的場豊子 2013/2/14 毎日新聞鹿児島版掲載

一かけ、二かけ

2013-02-18 16:09:04 | はがき随筆
 昨年、鹿児島県老人クラブより懐かしの愛唱歌集を頂きました。パラパラとページをめくっていますと、私の目が一つの歌詞の上でとまりました。西郷隆盛が歌詞に出てくるわらべ歌でした。「一かけ二かけ三かけて」と始まるかぞえ歌です。私も70年前に皆と歌っておりました。しかし私は、当時はこの歌はてっきり何かの替え歌だと思っていたのです。
 歌は、「十七、八の姉さんが花と線香手に持って、姉さん姉さんどこへ行く、わたしは九州鹿児島の西郷隆盛むすめです」と続きます。私は久しぶりに子供の頃に帰りました。
  鹿児島市 野幸祐 2013/2/9 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆1月度

2013-02-18 15:42:52 | 受賞作品
はがき随筆1月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】4日「久連子鶏」小村忍(69=出水市)
【佳作】1日「きらめく瞳」新川宣史(65)=いちき串木野市
▽28日「流れ着いた物」高橋誠(61)=鹿児島市


 久連子鶏 五家荘に行き、久連子鶏を見た印象です。九連子村では、学童もいなくなり、学校も廃校になり、寂しいかぎり。しかし、平家の落人にゆかりの九連子鶏は、美しい羽色を見せて800年の歴史を生きていた。廃れいくものの歴史と残り続ける命とが対比されていて、美しい文章になっています。九連子鶏という文字の、見た目と響きの印象が全体を引き立てています。
 きらめく瞳 幸い脳梗塞の後遺症がなかったので、毎朝学童の保護活動をしている。なかには感謝の言葉を返して登校する1年生もいて、慰めになる。その子のきらめく瞳に、家庭教育の様子が知られ、将来に希望がもててくるという、気持ちのよい文章です。
 流れ着いた物 高知県の漂流物博物館(?)のお土産が、娘さんから送られてきた。流木が一本、むきだしのままで、切手は国際文通週間の記念切手。娘さんの意図と、それを酌んでくれた郵便局員の好意とがこめられた美術品ではあった。こういう心のつながりは、読んで幸福な気分になります。
 この他に3編を紹介します。
 若宮庸成さんの「今年の夢」は、大リーグの開幕試合を東京ドームでみたら、病みつきになり、今や夫婦の夢は、ヤンキースタジアムでイチローと黒田を見ることだという楽しい文章です。その費用は葬儀資金をとり崩すそうて、いいですね。
 年神貞子さんの「ヨイトマケ」は、紅白歌合戦で聞いた、ヨイトマケの歌に触発されての回想です。戦後に、校舎建設の手伝いにヨイトマケをしたが、今はその校舎も市民の広場になってしまっている。こぞの雪今いずこ、余情の残る文章です。
 清水恒さんの「今浦島」は、10年以上人里離れた場所で仕事をしているうちに、今浦島になってしまった。コンポを買っても使い方が分からない。説明書もまるで宇宙人のもののようだ。それでも死ぬまでに、カラオケ一曲くらいは歌えるようになりたいものだ。なんともいえぬおかしみのある文章です。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

お久しぶりです

2013-02-13 15:14:47 | アカショウビンのつぶやき
 ある事情で、気持ちも少々ふさぎこみ、
ブログ更新も滞ってしまいました。
 ブログ更新歴が、離れて住む親の安否確認と思っている子供達は「大丈夫…?」

 皆さんが楽しみにしてくださる、はがき随筆のアップだけがやっと。
「ひとりごと」は、つぶやく気持ちにもなれず、
すっかりご無沙汰でした。

 やっと、解決の道が見えてきました。
 久しぶりに庭に目をやると、春がいっぱいでした。














 

なんでなんでー。見事にヒヨドリに食べられてます。
でも、しっかり花芽をつけて…いじらしい。

わたしの2012年

2013-02-13 15:06:15 | はがき随筆
 2月に5度目の腸閉塞、7月には腸壁が破れて手術、その翌日母の死去と続いた。
 11月は念願の豊田勇造ライブを我が家で開催。まだその余韻が私の中にある。友人からも感嘆の声が届いた。
 この所、週末に孫達(5歳と8歳)が電車で来る。明日どこに行く? 何をする? が口癖、市のパンつくりや小さな椅子造りに参加した。3台の自転車で「こころ旅」と称して農道を走った。クリスマスには3人でクッキーを焼き、ローストチキンがテーブルを飾った。
 国は又、逆戻りしそうだが、この子たちの未来を曇らせてはいけない。
  薩摩川内市 馬場園征子 毎日新聞 はがき随筆欄投稿

放免しますか

2013-02-13 14:34:01 | 女の気持ち/男の気持ち
 「まるで猿のようだ」
 布に包まれた生まれたばかりの長女を見た夫が、思わず漏らした。もっとほかの言葉は思いつかなかったのかと、以来、私は長女の誕生日ごとに50回も同じ言葉を繰り返してきた。
 3人の子供は、いわゆる自宅出産だった。古来多くの女性がそうしてきたし、何よりも二重生活になるのが嫌だったからである。
 初産の長女は屋久島にいた時に生まれた。出産に備えて、1人暮らしだった母の所に夫婦で移り住み、夫は13㌔ほど離れた学校にバス通勤した。
 12月のある日、昼に往診した助産師は「明日しか生まれない」と、4㌔離れた自宅に帰ってしまった。
 日暮れになって、下にやった手が髪のようなものに触れたので、勤めを休んでいた母を呼んだ。母は「頭が見え始めた。気張って産まにゃいかん」と励まし、ちょうど帰宅した夫にも介助を頼んだ。私が夫の手を力いっぱいつかんだので、夫は「痛い」と言ってそばを離れた。すかさず母は、助産師に電話をかけて呼んでくれるよう頼んだ。
 当時、電話は地区の事務所に1台しかなかった。暗い上に地理に不案内の夫が用を済ませて戻ったのは25分もたってからで、既に長女は生まれていた。
 産湯も使えず、血の付いたままのわが子を見ることになった夫が、驚きのあまり正直な気持ちを吐露した言葉だったと後に知った。
 もう放免しますか。
  薩摩川内市 森孝子 2013/2/13 毎日新聞の気持ち欄掲載

スーパーモデル

2013-02-13 14:25:31 | はがき随筆
 歩道に猫が丸まっている。飼い猫なのか? 野良猫なのか? 
 妙に人慣れしているのが謎だ。目が茶色に輝き気品がある。私は膝をつき手のひらを差し出す。「ニャア」と鳴きながら大きく背伸びした。「わあ、猫のポーズだ」と感激の声を上げた私。腰にくびれをつけようと励んだ昨年、我が家で流行した「猫のポーズ」。今まで<痩せる>の誘惑に負け? エステ教室にサプリメント、DVD、ウオーキング……。経費と時間は数知れず。いまだ発展途上人。細い脚にお尻をしなやかに振る猫の後ろ姿。「貴猫(あなた)もダイエットやってるの」
  鹿児島市 吉松幸夫 2013/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

女正月

2013-02-13 14:18:45 | はがき随筆
 寒気も緩んだある日、友人たちと女正月と気取って長島へ出かけた。お目当てはかねてうわさに聞いていた、器に凝ったおしゃれな店での食事。車中、家族の話で盛り上がる。それぞれ、しゅうとめに仕えて苦労した者同士。そのしゅうとめも見送って今は自分がしゅうとめになっている。自分がしてもらえなかったこと、されてつらかったことなどを嫁には味わわせたくない、味わわせでもしたら縁を切られてしまう、というのが私たちの一致した意見。無理して! どんなに嫁がかわいいか、どんなに嫁に仕えているかという自慢話? になって大爆笑。
  出水市 清水昌子 2013/2/11 毎日新聞鹿児島版掲載