はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

母へ

2012-02-24 15:23:13 | はがき随筆
 「東風吹かばにいおこせよ梅の花主なしとて春を忘るな」。縁側で庭に満開の梅の花をみながら菅公の一首を教えてもらいましたね。あれから50年。忘るることなく今はあちこちの庭で梅を愛でています。朝の散歩の折「梅が咲いている」と歓声をあげるのは娘です。実家にはまだ梅が2.3本残っているようですが、弟の代になり行く機会もなくただ懐かしむだけです。私も暇をみて天神様へ祈願に行きますが、固かった紅梅が3.4分咲きになりました。北からの風をまともに受ける所なので白梅はまだです。この世からの一報です。みな元気です。
  鹿児島市 東郷久子 2012/2/23 毎日新聞鹿児島版掲載

金柑漬込み前に

2012-02-24 15:17:24 | はがき随筆
 僕の庭にたくさんの黄金色の金柑がぶらさがりました。亡妻が近所の人に頼み阿久根の植木市で求めたものです。高さ3㍍ほど。大きい実は鶏卵ほどもあって見物に訪れる人もいます。僕は不自由な体ですが、収穫が楽しみの一つです。なぜ、こんなに豊作だったか推測するに帰省した息子が剪定した結果か?
 生で食べて良し、漬け込みにして食べて良し、柑橘類の王者だと思います。娘と金柑の漬け込みをしていますが、一個一個の蔕から実を支えていた小さな枝をつまようじみたいな細い物で抜き取らなくてはならない。根気と時間がかかります。
  阿久根市 松永修行 2012/2/22 毎日新聞鹿児島版掲載

でかしたぞ

2012-02-24 14:56:31 | はがき随筆
 米ノ津中学校の教え子が卒業個展(書道)「夢のつづき」を出水市にて3月6日から開く。小学校からのたゆまぬ努力と精進が実り、開くほどの力量を高めてきた。書道家の夢も必ずやかなえられることだろう。
 教え子の「よく頑張ったね。でかしたぞ」ぶりに比べ、私の8年間、微々たる努力であった。教え子の精進ぶりにおろおろするばかり。追い越された。負けた、の一言に尽きる。
 「はがき随筆」の掲載。100編までに2.3年は要するだろう。教え子との距離が遠のくばかり。ああ-情けなき存在の自分よ。廃るなよ。昭ちゃん。
  出水市 岩田昭治 2012/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆1月度入選

2012-02-24 14:26:36 | 受賞作品
 はがき随筆1月度入選作品が決まりました。
▽出水市緑町、道田道範さん(62)の「ラストシーン」(7日)
▽鹿児島市薬師、種子田真理さん(59)の「マイ骨壺」(13日)
▽同市真砂本町、萩原裕子さん(59)の「さらりと生きる」(4日)

の──3点です。

 映像文化関係者の話ですが、テロリズムの映画などで、いくら迫力のある映像を作っても、9.11の映像以上にリアリティーのあるものはできにくいそうです。同様に、自然災害のパニック映像の作成も、3.11の映像以上のリアリティーは難しいそうです。3月11日が近づいてきました。言語文化にはどのような表現の可能性があるのでしょうか。
 道田道範さんの「ラストシーン」は心温まる内容です。病院で見かけた、上品で温かい雰囲気の老夫婦の情景のスケッチですが、素晴らしい夫婦愛を見つけるのも、思いやりと包容力のある観察者の心が必要のようです。
 種子田真理さんの「マイ骨壺」は、骨壺の話は文章にし難いものですが、感じのいい内容にまとまっています。有田の陶器店で買った、桜の図柄の骨壺が気に入った御母堂は、桐箱に入れて、来客にも披露しているという、その情景が目に浮かぶような文章です。
 萩原裕子さんの「さらりと生きる」は、題とは異なる、暗い悲しい内容です。御主人の病状が思わしくなく、それを悲しむ自分を逆に御主人が慰めてくれるという内容です。「さらりと生きる」と言っても、老いと死の問題はそれほど簡単なものではありません。文章表現はあるいは一つの解決策になるかもしれません。
 入選作の他に3編を紹介します。
 阿久根市大川、的場豊子さん(66)の「もったいないⅡ」(30日)は、片付け方の本を読んで、ゴミ5袋分を捨てることにしたが、ゴミ出しまでの間に、逆にゴミの量が減ってしまったという、もったいない世代の心理が描かれています。
 鹿屋市寿、小幡晋一郎さん(79)の「偶然の数字」(17日)は、車の購入日が11年11月11日であったり、父親の誕生と死亡が同月同日であったり、私たちが偶然の数字の巡り合わせのなかで生きている不思議が書かれています。古い中国では、運命のことを「数」といいます。
鹿児島大学名誉教授・石田忠彦