はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

柿の実

2009-12-07 17:54:09 | はがき随筆
 渋抜きの方法を添えて渋柿をもらった。早速湯飲みに焼酎を用意し柿のへたにたっぷりとつけて2回転させる。ビニール袋にへたを上にして並べ終え、残りの焼酎を全体にふりかける。ビニール袋は二重にして口をしっかりと結ぶ。天日に3日当てたら渋が抜けるらしい。
 太陽でぬくもった柿の袋は日没と同時に室内で布団をかけて余熱の状態にする。このところ天気が悪くて快晴はまだ2日。明日はいよいよ3日目の晴? うまく渋が抜けてくれるかなと楽しみな柿の実でもある。
柿の実のあふるる秋に思ひ出す
  やさしき姑のあの言の葉を
 霧島市 口町円子(69) 2009/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

いやしの寺

2009-12-07 17:50:49 | はがき随筆
 「いい時に来なすったばい」と坊守は満面の笑みで迎えた。境内の一角には日を浴びて、イチョウの大木が立っている。天上の葉と敷き詰まった落ち葉は呼応するように金色に映える。この明るい光景とひっそりかんとたたずむ寺のコントラストの妙が不思議と心地よい。敷石に腰掛けしばし過ぎし日を思う。
 イチョウの木の下には「橋を越え中川原越え橋を越え先づ見んとする球磨の禅院」と詠んだ与謝野晶子の碑がある。昭和7年に鉄幹と共に訪れている。
 私たち夫婦もいにしえに思いをはせながら四季折々に、いやしを求めてやって来る。
  伊佐市 山室恒人(63) 2009/12/4 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はkusatomoさん

明らかに究める

2009-12-03 20:53:01 | はがき随筆
 先日、住職から五木寛之の「人間の運命」という新刊を頂いた。作者は私と同じ朝鮮半島からの引き揚げ者で、以前からのファンでもあることから一気に読み干した。そして「明らかに究める」ことを学んだ。人間はすべて闇をかかえて生きている。ありのままの現実を勇気をもって認め、運命と共に生きることの大切さを読み、救われる思いがした。私も引き揚げて3ヵ月後に父を亡くし、闇から抜け出せない自分だったのだ。「明らかに究める」ことで明かりが見えた思いは「一隅を照らす」最澄の言葉と重なり体の中を心地よい風となって通りすぎた。
  志布志市 稲木政子(74) 2009/12/3 毎日新聞鹿児島版掲載

待望の直通バス

2009-12-02 18:40:34 | アカショウビンのつぶやき
 陸の孤島と言われて久しい大隅半島。
 県庁所在地の鹿児島市に行くには、路線バスで40分、垂水港からフェリーに乗り替えて35分、鹿児島市の鴨池港まで1時間半かかる。さらに鹿児島中央駅まで行くにはもう一度バスに乗り替える、乗り換え時間のロスを入れると約2時間近くもかかってしまう。

 嬉しいことに、12月1日から鹿児島中央駅まで直通バスが運行されることになった。2011年春の九州新幹線の全線開通による、大隅半島への交流人口増をねらったものだが、利用者にとっては嬉しいことだ。

 ただし、この不景気な時代にどこまで利用が増えるのかと言う心配もあるが、利用者の増加によりいつまでも運行できることを心から願う。

 関東に住む子どもたちを訪ねるとき、たまには新幹線利用もいいかもしれないなあ。

「支えられて」

2009-12-02 18:39:52 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   横山 恵子

 母が「夕焼けがきれいよ。出て見んさい」と言う。うろこ雲の周りの紅色が目に飛び込んできた。しばし大空のパノラマにくぎづけだ。

 両親と同居して17年。いろいろあったが、不規則な仕事を支えてくれた功労者は母。悩んでいると「人は自分の肩に乗るだけの苦労は背負うものと言うからねー」とか「恩は岩に刻め、憎しみは水に流せ」との言葉に重荷も軽くなった。

 親子といえども、素直になれなくてたまに火花を散らすこともあった。でも、年とともにお互いまあるくなった? まだまだ頼りにしているんだから、□と同じように体も元気でいてね。
   (2009.11.29毎日新聞「はがき随筆」掲載)



「生きるとは?」

2009-12-02 18:38:29 | 岩国エッセイサロンより
   岩国市  会 員    安西 詩代

 「昨夜、主人が亡くなりました」と早朝の電話で告げられた。熊本の夫の友人を見舞いに行ってわずか16日目。あの日の彼のまだ生きたいという生命力あふれる握手が、手に残っている。

 医師から、もう手術も治療もできませんと言われ、自力での奇跡を起こすと彼と奥さんは頑張っていた。8月に日本アルプスをご夫婦で縦走した。

 私の夫は「登山で体力を消耗したから、病魔のほうが勝ったのだ」と悔やむ。しかし、山登りに行かなかったら、何力月長生きできたの? 私は最後の山登りに、二人の生き方を感じた。まだ星の残る早朝、夫は悲しい別れに出かけた。 
  (2009.11.27 毎日新聞「はがき随筆」掲載)



孫の結婚式

2009-12-02 16:31:32 | はがき随筆
 11月22日。晩秋の肌寒い曇った日だったが、,福岡で孫の結婚式。
 30年いとおしんできた初孫。感激ひとしおであった。喜んでいいのだが、2月に亡くなった妻に晴れ姿を一目見せてやりたかったと思うと、思わず涙が出てきた。
 孫は、娘と同じ大学を出て薬剤師。「いい夫婦」という語呂合わせの日だから、きっと幸せになってくれるだろうと思う。
 妻が亡くなって9ヵ月。私の寂しい生活に、大輪の花が咲いたような一日であった。
 また一人の生活に戻ったが、元気を出して頑張りたい。
志布志市 小村豊一郎(83) 2009/12/1 毎日新聞鹿児島版掲載

オーケストラとともに

2009-12-01 20:00:39 | アカショウビンのつぶやき


 11/29(日) 鹿屋市文化会館で、大隅半島唯一のオーケストラ「かのやオーケストラ」の定期演奏会で歌ってきましたあ(*^_^*)。

 かのや第九合唱団のデビューです。
曲は「ふるさとの四季メドレー」に「威風堂々」の2曲。団員約150名の大合唱、オケの伴奏で歌うのは最高でした。
聴いてくださった方々の中には「涙が出た」とおっしゃる方もありました。

   うさぎ追いし かの山
   こぶなつりし かの川
   夢は今も めぐりて
   忘れがたき ふるさと

 練習中「あなたの懐かしいふるさとを思い浮かべながら歌いなさい!」と何回も注意されましたが、少しはその思いが伝えられたのでしょうか。

 かのや第九合唱団の本番は来年12月5日、ベートーヴェンの第九を歌います。年が明けると早速、練習スタートです。この歳で果たしてドイツ語で歌えるのか自信はないのですが…。
 新しい年も、元気に楽しく歌えますように、その思いだけで頑張ります。

第1回「ペンクラブ賞」発表

2009-12-01 18:34:53 | アカショウビンのつぶやき
 毎日新聞の投稿欄では、人気ナンバーワンの「はがき随筆」投稿者の集い「毎日ペンクラブ鹿児島」の研修会が11月29日鹿児島市で開催された。
今回は平山支局長の文章講座に引き続き、長年の懸案事項であり、やっと新設された「はがき随筆」ペンクラブ賞の発表があった。
 実力派の女性エッセイスト、KさんとTさんのお二人に、ペンクラブ会長より記念の盾が贈られ、参加者一同の祝福を受けた。
 研修会には会員以外の参加者もあり、支局長の的確なアドバイスを頂き、さあ書くぞ! の思いを新たにしながら散会した。

はがき随筆10月度入選

2009-12-01 18:08:45 | 受賞作品
 はがき随筆10月度の入選作品が決まりました。
▽垂水市市来、竹之内政子さん(59)の「金御岳」(20日)
▽志布志市志布志町志布志、小村豊一郎さん(83)の「夜明けの断想」(22日)
▽伊佐市大□上町、山室恒人さん(62)の「メタボちゃん」(25日)
  -の3点です。

 長崎の端島、俗称「軍艦島」に行ってみました。石炭を触ったことも見たこともない、若い観光客でいっぱいでした。近代化遺産といえば格好よく響きますが、私には、人間の欲望が自然を食い荒らした残骸に見えました。日本中が廃虚にならないといいのですが。
  竹之内んの「金御岳」は、鷹柱を見に行った時の感激がまとめられています。宮崎から大隅半島にかけてはサシバの渡りのルートらしく、遠方からも人が集まるようです。このような自然現象を見て、偶然集まった観察者同士が「一体感」をもったという感覚がすばらしいと思います。
 小村さんの「夜明けの断想」は、年をとると秋から冬へと夜明けが遅くなるのがつらいという、老いの独り暮らしのわびしさがつづられています。川端康成の小説にもその実感を描いたのがあります。眠れない時には読んでみてください。
 山室さんの「メタボちゃん」は、おなかいっぱいに食べた2歳の孫娘を「メタボちゃん」とあだ名で呼ぶと、意味も分からずに笑って駆け寄ってくる。その「あどけなさ」に病後の自分は慰められるという内容です。生命の継続のようなものが感じられる文章です。
 以上が入選作です。次にこの他の優れていたものを紹介します。
 道田道範さんの「リンゴ」(17日)は、40年前の長野旅行で、5歳の女の子にもらったリンゴがおいしかったので、田舎の父母に送った。それ以来お母さんが、そのことを「冥土への土産話」にもっていくと褒めてくれるという、心温まる内容です。
 久野茂樹さんの「真夜中の声」(27日)は、入院中の夜中の病室に、隣室から、娘さんの名を呼ぶ老人の絞り出すような声が聞こえてきた。「正しい老い方」への感懐を悲しく抱いたという内容です。
 山口弘さんの「長過きた忘れ物」(4日)は子供のころ、渋柿の渋を抜くために田んぼに埋めたことを思い出して、70年ぶりに訪ねてみたという、何とも人を食った内容です。軽妙な味がある文章です。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)
2009/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

一番の宝物

2009-12-01 17:46:47 | はがき随筆
 広島の原爆投下の2ヵ月前に2クラスの担任となり、23年に離れたがりーダーA君の努力で今も手紙・電話は続いている。
 10月下旬A・M君が代表で病気見舞いに来てくれた。昔の放課後は木登り・合唱・相撲・探検・焼き芋の話で笑い。自宅に泊まり幻燈機・手回し映画に夢中。休日は芋だんごやはったい粉を食べ、絵や毛筆を楽しみ散髪やつめ切りで騒ぐ。話題は尽きない。「僕たちは幸せな小学生でした。先生に感謝しています。また来ます」と少年のように手を振った。
  ″私の一番の宝物は、あなたたち″
  薩摩川内 上野昭子(81) 2009/12/1 毎日新聞鹿児島版掲載


公民館ロビーで

2009-12-01 17:37:13 | はがき随筆
 ある日公民館に出向くと、ロビーでは話がはずんでいた。
 70代の女性が「私は毎年この時期になるとのどがおかしくなるの。インフルエンザじゃないから心配しないで」と言うと、60代の女性は「そうそうインフルエンザといえば、早くワクチンを打ちたいのだけど。かかったらどうしよう」と言う。50代の女性は「私はワクチンは打たない。6000円かかるというじゃない。その分うまいものでも食べた方がいい」と言う。
 それを聞いて私は「今回は新型だから打った方がいいと思うよ。もういい年なんだから」とふと、つぶやいていた。
  鹿児島市 川端清一郎(62) 2009/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載

つるべ落とし

2009-12-01 17:33:16 | はがき随筆
 夕方、30代とおぼしき女性が店内へ。「5時を過ぎるとすぐ暗くなり、つるべ落としって良く言ったもんですね」と私。すると、彼女は手を□に当て肩をすくめクスクスッと笑った。何がおかしいんだろう……という顔の私に「それってなんの事ですか?」
 「井戸につるべを……」と説明しかけたが、この世代は時代劇の中でしか井戸やつるべは知らないと悟り「秋の夕日は沈むのが早いということわざ」だと言うと笑顔のまま「フン~」
 昔ほどことわざを使わなくなり、語り継がれなくなるのではと思う瞬間だった。
  垂水市 竹之内政子(59) 2009/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載


秋の朝に

2009-12-01 10:23:02 | はがき随筆
 甘く優しいキンモクセイの香りが、どこまでも追いかけてくる秋の朝です。宿無しの黒ネコが道路をのそのそと横切って行きました。向こうから、白のワイシャツに流行の黄金色のネクタイ姿の男性が歩いてきます。いつもは見かけない高校生が、今朝は自転車で通り過ぎていきました。
 ああ、なぜ、この風景の中に夫の姿が無いのでしょう。
 今年も、寝たきりの夫のために、玄関のキンモクセイの花を摘みました。もう目を覚まして私の姿を捜しているでしょう。
 甘い香りと一緒に、急いで家に入りました。
  鹿児島市 萩原裕子(57) 2009/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

こわれた椅子

2009-12-01 09:23:48 | はがき随筆
 孫息子が帰省するので、娘が玩具と椅子を買った。椅子はプラスチック製で100円。青と黄色で可愛い。孫息子は喜んで椅子に掛けた。私も掛けたら「ギシャ、ギシャ」と音を立てて壊れた。50㌔の体重をかけると壊れるかどうか思案したが試してみた。私の野心、冒険心がいたずらに働いた。大人げないことをした。心がとがめた。心の底から許せない気持だった。
 孫息子は「ばあちゃんの意地悪」と言い、予定より早目に帰京した。この次の再会には、仲直りの新しい気分で接しようと努力しよう。「破壊は簡単だが建設は難しい」
  加治木町 堀美代子(65) 2009/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載