はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

11月の蚊

2008-11-28 19:34:03 | はがき随筆
 消灯後、弱々しい蚊の羽音がする。夏と違って勢いも元気もない。ここ数日、部屋に居着いているのか、床に就く時分に現れる。蚊は何回か旋回するものの刺す気力はないらしい。私には蚊が、地球温暖化の影響で死する時を失い、ただ命を永らえているように思われる。
 ふと私は自分の人生を思った。「団塊世代」の私の老後はどうなんだろう。今時、子供をあてにする親は少なかろう。寝たきりで病院をたらい回しにされるのも嫌だ。適当な施設があって入ることがはたして可能か。
 季節外れの蚊は、老後をさまよう人間の姿に似て悲しい。
   伊佐市 山室恒人(62) 2008/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆10月度入選

2008-11-28 19:27:40 | 受賞作品
 はがき随筆10月度の入選作品が決まりました。
▽伊佐市大口上町、山室恒人さん(62)の「へんてこな夢」(10日)
▽薩摩川内市宮里町、田中由利子さん(67)の「蛇とサンマ」(5日)
▽志布志市志布志町内之倉、一木法明さん(73)の「短いいのち」(2日)

──の3点です。
 お彼岸だったせいかどうか、10月分の随筆には近親者の死やその思い出をつづったものが多く見受けられました。また、季節の移り変わりの時期でもあり、秋草についての感想もたくさんありましたが、これらの文章に一ひねりほしいというのはいつもの実感です。
 山室さんの「へんてこな夢」は、3年前に退職したのに、まだ職場で失敗したり焦ったりしている夢を見る、という内容です。夢の実態は多くの説があってまだ定説はないようですが、たとえ失敗談でも、山室さんのように、その夢を通して自分の存在を分析して、楽しむのが何よりだと思います。
 田中さんの「蛇とサンマ」は、庭をはう大きなどす黒い蛇(青大将でしょう)をみたら、旬のサンマを買う気がしなくなって、このショックからなかなか立ち直れない、という内容です。「サンマ苦いかしょっぱいか」。この秋はあきらめるより仕方なさそうです。
 一木さんの「短いいのち」は、ほぼ全文がご夫婦の会話で構成されています。その会話の中に、鈴虫の短い命の、燃焼と滅びとが、たくみに表現されています。このような、命そのものに触れるという生活が無くなりつつありますので、身にしみる文章です。
 次に印象に残ったものを紹介します。
 口町円子さんの「クロちゃん」(3日)は、放し飼いかの猫が、ときたまふらりとやってきて、甘えて帰る「悠々自適?」に、人も慰められるという内容です。森孝子さんの「消えた百円札」(22日)は、なけなしの百円札をもっ病気の父親の代わりに精米所へ行く時、それを落としたら、先生が拾って持ち帰ってしまったという、なんともひどい、子どもの時の苦い思い出です。伊地知咲子さんの「ワレモコウ」(31日)は、秋になるとひっそりと咲く「吾亦紅(われもこう)」に、<思い出せない思い出>がよぎるという意味深長な内容です。花の名前はいいですね。「勿忘草(わすれなぐさ・フォゲット・ミイ・ノット)」というのもあります。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)
 係から 入選作品のうち1辺は29日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。

バイキング

2008-11-27 23:22:38 | はがき随筆
 秋晴れに誘われランチにでかけた時のこと。普段は小食だと言いながら、バイキングともなればなぜか胃袋が膨らんでいくと娘に笑われる。それって欲張りのせいでしょう。並べられた料理に目を輝かせながらテープルに着く。さすがにクリやマツタケにはお目にかかれなかったが娘との会話は盛り上がり、味の異なる食べ物はストップなく胃袋に収まっていくから不思議である。紅茶に浮かせたレモンの香りに息を吸い込み、今は何も考えられないと言いつつ、よたよたと店を出る。車はスーパーへ向かって走り出した。
<夫には一品大くサンマ焼く>
   鹿児島市 竹之内美知子(74) 2008/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載

なんだかうれしい

2008-11-27 23:15:36 | はがき随筆
 8月末、篤姫様ブームにのって出水武家屋敷群を見学。静かなたたずまい。門をくぐっていざ、お屋敷へ。遠い昔に思いを寄せて、ゆっくりと時間が流れていく。 10月末、出水ツル観察センターに行った。五千羽余りのツルが来ていた。広い広い泉平野。そこで人と共に幸せに冬を過ごすツルたち。千羽、二千羽とやって来て舞い降りる姿は、壮大なことだろう。「ツルはとても仲がよく家族を大切にします」「ツルは平和な鳥です」という係の方の言葉が心に残った。
 二つの場所に行けて、何だかうれしかった。
   出水市 山岡淳子(50) 2008/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載

後期を後輝に

2008-11-27 23:08:29 | はがき随筆
 「後期高齢」の表現は、余り評判が良くない。語意にこだわる世代には冷たい感じがする。
 反面、人生の後期を覚悟する意味とも受け取れるが、多くの人が後期を輝きながら、立派に活躍されておられる。日野原重明先生、瀬戸内寂聴さんなどすばらしい。加齢すると意欲、体力は衰えるけれど、可能な限り「輝いて」生きる願望を心の底に秘めている。
 「後輝」は広辞苑にはないけれど、後期より後輝こそ大切な発想。決して多くない時間の後期を横に置き、心の輝きを終わりまでと願い、悔いのない人生に。雲一つ無い秋空に思いを。
   鹿屋市 小幡晋一郎(76) 2008/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載

秋の夕暮れ

2008-11-27 22:56:27 | はがき随筆
 彼岸が過ぎて2ヶ月が過ぎようとしている。季節のうつろいは実に早い。例年になく暑かった夏の日々が信じられないように、朝夕は肌寒い。
 馬齢を重ねたせいなのか、秋は人生を思索させ、哀愁にひたるような複雑な思いをさせる。
 夕暮れ時、モズがけたたましく鳴く声にも、むしろ静寂を覚える。夕日は赤々と燃え、やがて静かに沈んでゆく。秋の夕暮れの風情やそよく風にも人生の無常を感じ、古稀を過ぎた夫婦が共に元気で生かされている幸せに思わず合掌してしまう。
 もうカレンダーも2枚になった。
   志布志市 一木法明(73) 2008/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はwisteriaさん

秋日和

2008-11-27 22:49:20 | はがき随筆
 孫とのふれあいは、老いの日々を潤してくれる。さわやかな秋晴れには程遠かったけれど、時折暗雲が頭上に重くのしかかる中、予定通り保育園の運動会は決行された。
 全員が見渡せる程良い広さの運動場は教師、保護者の工夫を凝らした設営が随所に見られ大会を盛り上げる。プログラムの進む中、いつしか保護者も童心に返り、本気で園児と向き合う感動的な情景はあふれる観衆を魅了し、拍手喝さいが続いた。 親子ペアのお遊戯では、出産を控えた母親の代役を楽しくこなし、心身のリフレッシュがうれしい収穫……。
   鹿屋市 神田橋弘子(71) 2008/11/16 毎日新聞鹿児島版掲載

瞬き

2008-11-15 22:53:50 | はがき随筆
 日もとっぷりと暮れ、家路を急ぐ。人恋しい季節である。かなたに星が瞬き「お疲れさま」とやさしく光り輝く。広大な宇宙の神秘を思う時、人生なんて星のまばたき程のあっという間の出来事なのかも……。
 元気だったつれ合いが突然の大病をし、あやうく命拾いした。目の前が真っ暗になった。生のはかなさを思い知った。しかし何よりも当人の明るさ、生命力に私の方が救われた。
 これからも時の流れの中を、なるべくゆっくり一緒に歩いていきたい。巡り来る季節のように実りあることを願いつつ。ちなみに私も一つ年をとった。
   出水市 伊尻清子(59) 2008/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

子どものやる気

2008-11-14 16:11:22 | はがき随筆
 小学校で算数のチーム・ティーチング勤務。1ヶ月過ぎたのに展開が思うようにいかない。教材研究に精進しているが、まだまだよと言わんばかりだ。「算数好きづくり」には今以上に頑張らねばならぬのだろうか。
 子どもたちには90年もの生きる権利がある。生き生き児童を育てるにはどう指導すべきか。どう接するべきか。よい方策をと模索の段階である。
 試みに、子どもたちに問題を作らせ、A4判の問題集を作った。自分の分もコピーされている。子どものやる気、奮起を引き出すチャンスか。一新に問題に取り組む子どもたち。
   出水市 岩田昭治(69) 2008/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

晩秋の寂しさ

2008-11-13 12:35:49 | はがき随筆
 晴れた日が少なく、今年の晩秋は空が重くてうっとうしい。
 そんな中で妻が入院して40日がすぎた。一人の生活にも少しは慣れたが、まだ現役の開業医なので仕事が多く大変である。
 たちまち暗くなる夕方、真っ暗な部屋に入るのがわびしいので、早めに明かりをつけておく。傘寿をすぎて厨に立つとは思わなかったが、それだけに戦中派にとっては寂しい思いがする。 
 しかし、人生しょせん孤独。悟ることはできぬが、半分あきらめて頑張ってゆきたい。晩秋の寂しさに耐えて。そう思うこのごろである。
   志布志市 小村豊一郎(82) 2008/11/13 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はsakiさん

カマキリ

2008-11-12 11:11:40 | はがき随筆
 「殺られる前に殺れ」。学生運動盛んなころ大学のキャンパスで見た物騒な言葉。実は私はカマキリが大の苦手で、発見するや否や息の根を止めるのだが、生物愛護の賢人からは即やり玉に挙げられよう。何より姿形が忌まわしい。ということは事物を外見だけで判断する愚か者の証しである。そのカマキリが近年、私の住む山里でも数を減らしている。「外国では神を拝む姿に似ているからあがめられるのよ」。妻の言葉を不気味に感じながら、あの世ではカマキリに復しゅうされるに違いないと恐れつつ、どうか眼前に現れませんようにと祈る私である。
   霧島市 久野茂樹(59) 2008/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はmumboさん

秋ナス

2008-11-11 12:10:43 | はがき随筆
 今年は秋ナスがよくなる。
 作物は苗次第と聞いた。苗は障害者の通う「いずみ園」の4月の催し物の時に購入したもの。彼らの丁寧に作った苗は、市民に好評だ。
 今年はボランティアで販売を手伝った。彼らの中にいると職員と彼らの会話が聞こえた。なんて優しい言葉だろう。そして思いやりのある彼らの会話に、暖かい空気が流れていた。
 かれらの気持ちに応えたのだろう。菜園の枝々に、紫紺に光るナスがさがっている。
 今朝、焼きナスにした。ふんわり野趣豊かな香りとあじがした。うまい!
   出水市 年神貞子(72) 2008/11/11 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はaguruさん

タカバシラ

2008-11-10 22:31:10 | はがき随筆
 食材も含めて季節感のあるものが好き。タカバシラもその一つだ。
 夏鳥であるサシバは日本で繁殖を終え、巣立って間もない若鳥と越冬地の東南アジアへ向けて、この時期に渡りを始める。その大きな群れが柱になることに由来するらしい。
 早朝、肝属郡錦江町田代の「照葉樹の森」に出かけた。思いがけなく山は雨と深い霧。待つこと3時間、瞬く間に霧が晴れ太陽が……。すると小規模のタカバシラが次々に上昇気流に乗り滑空していった。
 ごま粒のように消えていく彼らに、目頭が熱くなった。
   垂水市 竹之内政子(58) 2008/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載
   サシバの写真はbirdさん

ねんりんピック

2008-11-08 18:05:52 | はがき随筆
 志布志はマラソンの会場で、市民マラソンと連動して開催される。思い出作りと考え、ひそかに練習を重ね、その気になっていた。だが拠(よんどころ)ない事情により出場は断念。前日の会場設営ボランティアに参加した。何百というプランターを運動公園に運び、まさに花を添える作業。パンジー、ひまわり、サルビアどれもれもこの時季の花ではない。北海道では平地でも雪が舞う時、鮮やかな花の色と共に温暖を肌で感じて欲しい。日本各地からの人たちが人の温かさと共に、避寒の地としての鹿児島に、大隅半島に観光で来てくれることを夢見ながら花を見ていた。
   志布志市 若宮庸成(69) 2008/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載 
   写真はazumiさん
   

私は問いたい

2008-11-08 17:44:20 | 女の気持ち/男の気持ち
 かつて北朝鮮の寧辺に住んでいた。今、核で話題の地である。広々とした台地と清流があり、山にカッコウが鳴き、真夏でも涼しい。山々はツツジで覆われ、風光明媚な所であった。
 敗戦で放り出された日本人は、何の助けも得られず、家も財産も捨てて歩いて帰るよりすべは無かった。
 「2歳以下の幼児は絶対無理」という責任者の言葉に皆うなずいた。現地の人に預けるようにと胸のつぶれる思いで決めた。これが今生の別れになろうとは誰も考えなかった。必ず迎えに来るという約束だった。
 連れて歩いた幼児は炎天下に耐えられず、次々と死んでいった。振り絞る母親の泣き声に皆が泣いた。なるべく大きな涼しい風の吹く場所へそっと寝かせて立ち去った。
 野宿の夜は怖いほど静かだった。降るような星、明る過ぎる月、夜なのに空が青い。何も良いことは無かったが、夜空の美しさを忘れない。
 夜半に野犬がほえる。オオカミのように気が荒い。どこからか死んだ赤ん坊をくわえて走り去った。皆は手を合わせて祈るのみ。
 預けた幼児も国交なくば迎えにも行けず、六十余年が過ぎ去った。きっと親子とも涙がかれるほど泣き明かしたに違いない。
 私は問いたい。戦争って何ですか。幼い子が何か悪いことでもしましたか。
   大分県竹田市 三代律子(74)  
   毎日新聞の気持ち 2008/11/7掲載 写真はkenさん