はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ねんりんピック

2008-11-08 18:05:52 | はがき随筆
 志布志はマラソンの会場で、市民マラソンと連動して開催される。思い出作りと考え、ひそかに練習を重ね、その気になっていた。だが拠(よんどころ)ない事情により出場は断念。前日の会場設営ボランティアに参加した。何百というプランターを運動公園に運び、まさに花を添える作業。パンジー、ひまわり、サルビアどれもれもこの時季の花ではない。北海道では平地でも雪が舞う時、鮮やかな花の色と共に温暖を肌で感じて欲しい。日本各地からの人たちが人の温かさと共に、避寒の地としての鹿児島に、大隅半島に観光で来てくれることを夢見ながら花を見ていた。
   志布志市 若宮庸成(69) 2008/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載 
   写真はazumiさん
   

私は問いたい

2008-11-08 17:44:20 | 女の気持ち/男の気持ち
 かつて北朝鮮の寧辺に住んでいた。今、核で話題の地である。広々とした台地と清流があり、山にカッコウが鳴き、真夏でも涼しい。山々はツツジで覆われ、風光明媚な所であった。
 敗戦で放り出された日本人は、何の助けも得られず、家も財産も捨てて歩いて帰るよりすべは無かった。
 「2歳以下の幼児は絶対無理」という責任者の言葉に皆うなずいた。現地の人に預けるようにと胸のつぶれる思いで決めた。これが今生の別れになろうとは誰も考えなかった。必ず迎えに来るという約束だった。
 連れて歩いた幼児は炎天下に耐えられず、次々と死んでいった。振り絞る母親の泣き声に皆が泣いた。なるべく大きな涼しい風の吹く場所へそっと寝かせて立ち去った。
 野宿の夜は怖いほど静かだった。降るような星、明る過ぎる月、夜なのに空が青い。何も良いことは無かったが、夜空の美しさを忘れない。
 夜半に野犬がほえる。オオカミのように気が荒い。どこからか死んだ赤ん坊をくわえて走り去った。皆は手を合わせて祈るのみ。
 預けた幼児も国交なくば迎えにも行けず、六十余年が過ぎ去った。きっと親子とも涙がかれるほど泣き明かしたに違いない。
 私は問いたい。戦争って何ですか。幼い子が何か悪いことでもしましたか。
   大分県竹田市 三代律子(74)  
   毎日新聞の気持ち 2008/11/7掲載 写真はkenさん

百円の思い出

2008-11-08 17:30:51 | はがき随筆
 私が小学生で8歳の時、夕暮れ時に父が晩酌の酒を買ってくるように言った。
 店は、橋を渡り家から離れた所にあった。勇気を出して出かけた。帰り道、家路を急いでいたら、先を行く大人の姿があった。私はその人に近づき、共に歩いた。安心だったからだ。男性だった。その人はやさしく話しかけた。
 家の近くに来たので「右へ曲がりますので、さようなら」と言ったら、当時の金で百円札を小遣いにとわたされた。暗いので、顔も姿も覚えていない。手先だけを思い出します。
 一生忘れない感謝の心。
   肝付町 鳥取部京子(69) 2008/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載