はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

足を知る

2008-11-01 12:46:52 | はがき随筆
 某紙に「年金日後前(うしとまえ)無か倹し(つまし)所帯(しょて)というさつま狂句を載せてもらった。「年金受給日の前後も特に変わらない質素な暮らしをする家庭」の意。
 在職中の給料生活でも右の句の精神で過ごすよう努めた。もうちろん趣味などは人並みに頑張ったが、けちは嫌いだった。
 収入は大いに越したことはないが「入るを計って出ずるを制す」をモットーに生きてきた者には、収入相応の工夫した生活で足りた。その主義は、今もって身に染みて苦にはならない。子ども2人も独立しているが、家計のことでの泣き言やトラブルは聞いたことがない。
   薩摩川内市 下市良幸(79) 2008/11/1 毎日新聞鹿児島版掲載

ワレモコウ

2008-11-01 12:19:43 | はがき随筆

 ワレモコウが咲いた。
 生け垣の根元に、ひっそり咲いた。
 鉛筆のしんのようにほっそり伸びた枝先の、暗紅色のだ円形の花は、控えめで地味で目立たない。けれど「我も亦紅なり」
と、いちずに咲いた。
 秋の深い心をまとった人のように咲いた。
 いつの秋も、ワレモコウは私をとめかせる。
 思い出せない思い出を、長い間さがし続けているのだけれど、それらしきものの影が、わたりをよぎる予感がして……。
   鹿屋市 伊地知咲子(71) 2008/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載